賃金は本当に上がるのか? 安いニッポンから抜け出せない、これだけの理由:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
選挙戦が盛り上がってきたが、ビジネスパーソンが気になるのは、やはり「賃上げ」だ。賃上げを達成するために、各政党は目玉政策を打ち出しているが、その中でひときわ目を引く「謎の政策」がある。それは……。
安いニッポンから脱出できるのか
もちろん、これらはすべて筆者の想像に過ぎない。が、天敵・菅義偉の政治的影響力が消滅したことで、中小企業3団体の発言力が以前よりも増していることは、岸田政権の目玉である「新しい資本主義実現会議」のメンバーを見てもよく分かる。
菅政権時の成長戦略会議には、「最低賃金の引き上げ」を強く主張していたデービッド・アトキンソン氏や新浪剛史氏がいて、三村明夫日本商工会議所会頭と時に激しい議論をしてきた。が、「新しい資本主義実現会議」では、三村会頭以外のメンバーはすべて消えている。何をか言わんや、であろう。
「中小企業支援」で賃金がちっとも上がらないことは既に歴史が証明しているが、それでもこの政策に与党が固執するのは、政権維持のために不可欠だからだ。
安倍長期政権の強さをバッグに、菅前首相は「中小企業保護」という構造的な問題に手を突っ込むことができたが、今の自民党はそんな博打は打てない。それは、まだしばらく「中小企業の低賃金労働」も保護されるので、「安いニッポン」も継続していくということだ。
選挙に弱い政権は、さまざまな支持団体の世話にならなくてはいけないので、首相とはいえ中間管理職のように「御用聞き」にならざるを得ない。
支援団体の多くは、経営者の利益を守る業界団体だ。日本医師会や日本商工会議所が分かりやすいが、まず病院や中小企業が存続することが大事なので、賃上げや労働環境の改善はどうしても後回しになる。
「失われた30年」を振り返ると、小泉、安倍政権以外はほとんど2年程度で終わっている。それはつまり、選挙が弱いということなので、労働者軽視がずっと続いてきた。「安いニッポン」は短命政権がつくったと言ってもいいのかもしれない。
岸田政権も今回、苦戦が伝えられている。来年に参院選も控える中で、これまで以上に業界団体の要望を、岸田ノートに書き込まないといけないはずだ。もはやわれわれは、自分たちの力で「安いニッポン」から脱出することは難しいのかもしれない。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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