賃金減少、日本の家計に世界的なインフレが直撃、「悪い円安」も追い討ち?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
世界的なインフレの影響が、日本の家計に大きな打撃を与える可能性がある。需要によらない供給側の要因で起こる物価上昇は「コストプッシュインフレ」、通称「悪いインフレ」と呼ばれている。
金融市場は「悪い円安」を示唆
足元で発生しているインフレ不安は、金融市場においても観測できる。菅義偉前首相の退陣表明から一度は3万円台に乗せた日経平均株価は、足元では2万8700円台まで値を下げる展開となっている。
額面上では4%程度の下げにとどまっており、株価もいくらかは戻しているようにもみえるが、足元の円安を鑑みれば、日本市場の実質的な価値は戻っていない。そこで、円建ての日経平均とドル建ての日経平均を比較してみよう。
菅前首相が退陣表明を行って発生した株価上昇が一巡した9月13日の株価を100と置くと、円建ての日経平均株価の額面は95.2にとどまっており、10月上旬のいわゆる「岸田ショック」から5%程度戻していることが分かる。一方、これをドル建ての日経平均でみると、岸田ショックの下げ足が円建てよりも深く、戻しも弱いことが分かるだろう。ドル建て日経平均株価の額面は92.2となっている。
裏を返せば、足元の日経平均株価は、円安でかろうじて反発しているものの、その要因を除去すると引き続き弱気な状態が継続しているといって差し支えない。
これまで、日本は輸出産業が得意とされており、円安は輸出産業の名目利益を押し上げる要因であるとされてきた。しかし、最近は円安になっても株価が上がらないパターンが増えている。
円安が発生して、ドル建ての株価が下落しても買いが入らない状態を「悪い円安」という。仮に為替主導で円安となった場合、企業価値は一定であるため為替ベースで下がったぶんだけ買いが入る構図となるはずだが、「悪い円安」の場合は為替取引が主導で発生したものではなく、日本市場からの資金引き上げによって円安が発生したという因果関係となるため、買いが入らないのだ。
冒頭で取り上げたOECDの物価上昇予測によれば、翌年も日本と世界のインフレ格差が継続してくるとみられ、輸入物の食料やモノの価格上昇が継続してくるとみられる。そんな時に家計の動きとしては、消費のベースを国内で生産される食料やモノへ切り替えていく可能性がある。
国内に目を向けると、足元ではコメ価格が大きく下落している。コメ農家にとっては深刻な事態であるが、そんな状況であるからこそ、パンからコメなどに食事を切り替えてインフレ状態をしのぎ、かつコメ農家等を支えていくような消費の仕方が一般的になっていくのかもしれない。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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