パナソニックの優秀人材流出、早期退職制度は人材の“焼畑農業”だ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/3 ページ)
パナソニックは10月1日、9月末で1000人以上の従業員が早期退職制度を利用して退職したことを発表した。“特別キャリアデザイン”というキレイな名称も、結局は対象の社員に「給与を下げるか、お金をもらって辞めるか」という選択を強いているものに過ぎない。この制度で、活躍が期待されていた優秀人材まで退職してしまったという寓話のような顛末となっていることも気がかりだ。
パナソニックは10月1日、9月末で1000人以上の従業員が早期退職制度を利用して退職したことを発表した。6月にCEOに就任した楠見雄規氏の会見では、「会社が目指す姿を明確に発信していれば、期待していた人まで退職することにはならなかった」と説明したことが話題となった。
「給与下がるか、辞めるか」究極の選択
パナソニックにおける早期退職実施の背景としては、コロナ禍によって業績が大きく後退したことにある。ソニーや日立が1兆円以上の最高益を更新する傍らで、パナソニックは25年ぶりの売上高7兆円割れとなり、営業利益も2580億円程度と2期連続の減益となった。
実は、現在はパナソニック特別顧問の中村邦夫氏が社長を務めていた2000年代のパナソニックでも、1万3000人に上る大規模なリストラが敢行されている。今回の早期退職のスタンス自体は、リストラではなく「特別キャリアデザインプログラムである」と強調し、早期退職の募集については事業の専鋭化や組織改革に伴って給与が下がる人が出てくるため“選択肢を示した”としている。
しかし同社の経営状況などを鑑みれば、“特別キャリアデザイン”というキレイな名称も、結局は対象の社員に「給与を下げるか、お金をもらって辞めるか」という選択を強いているものに過ぎない。
この制度で、活躍が期待されていた優秀人材まで退職してしまったという寓話(ぐうわ)のような顛末(てんまつ)となっていることも気がかりだ。
仮にその優秀人材が勤続20年超えのベテランであるとしたら、社員育成のために支払っていた給与や経費、割増退職金だけでざっと1億円単位の損失であるし、仮にその人材が役員やCEOになっていたとしたら、その損失は金額では測れないレベルとなる。
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