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パナソニックの優秀人材流出、早期退職制度は人材の“焼畑農業”だ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)

パナソニックは10月1日、9月末で1000人以上の従業員が早期退職制度を利用して退職したことを発表した。“特別キャリアデザイン”というキレイな名称も、結局は対象の社員に「給与を下げるか、お金をもらって辞めるか」という選択を強いているものに過ぎない。この制度で、活躍が期待されていた優秀人材まで退職してしまったという寓話のような顛末となっていることも気がかりだ。

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松下幸之助は大恐慌でもリストラしなかった

 パナソニックといえば、経営の神様ともいわれる松下幸之助のイメージが根強い。松下幸之助の説いた「人間大事」などの哲学や名言は、時代を超えてさまざまなビジネスマンに愛されている。

 その中でも、「会社が苦境に立たされた時に社員をどのように扱うか」いう点について示唆となるエピソードがある。それは今から100年近く前の1929年に、ウォール街大暴落、いわゆる「暗黒の木曜日」が発生した年の松下電器で起こったことだ。

 29年の日本経済は世界恐慌下で大混乱に陥り、深刻な不景気に悩まされていた。そんな中で松下幸之助は社員をリストラしなかった。大恐慌当時の日本は、周りを見回せば経営危機や破綻する企業や工場が後を絶たず、失業者もあふれる事態となっていた。当然松下電器もその煽(あお)りを避けられたわけではなく、「在庫はさばけず、売り上げ立たず」の状況に陥っていた。

 内部からは従業員の半数を解雇してはどうかという声が上がったものの、松下幸之助はそれを認めず、そればかりか給与も全額支給するよう指示したのである。

 その結果、従業員が一致団結して在庫の販売にチカラを入れ、そこからわずか2カ月で在庫は一層され、工場もフル生産体制するまでに復活したのである。


10月1日の会見では、松下幸之助が確立した経営の基本方針に立ち返るとした

 当時の日本では経営学という分野が世にできて間も無くということもあり、一般的な経営フレームワークがまだ浸透していなかった時代だ。しかし、松下幸之助のリストラしない判断をあえて現代の経営学風に当てはめるとすれば、社員の心理的安全性を向上させ、組織コミットメントを高めた事例だったといえるだろう。

 心理的安全性とは、99年に米ハーバード大学のエイミーエドモンソン教授によって提唱された概念だ。2015年にグーグルが、「チームの生産性を高める」として重要である、といった調査結果を発表したことで一躍有名な言葉となった。

 この言葉は各チームメンバーが恐怖・不安を感じずに安心して行動や発言できる状態のことを指すが、経営においても「自分はメンバーとして会社が守ってくれる」という意識があればその会社の業務に打ち込める。

 終身雇用とはいえない今の日本では、終身雇用が旧時代的とみなされる場合もある。しかし、会社が終身雇用と決別することは、社員側としてはセカンドキャリアのために相応の準備が必要になり、「自社への全力コミット」を期待できなくなるデメリットを肝に銘じておくべきだ。

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