日立と東芝、ソニーとパナ 三度のパラダイムシフトが分けた「昭和企業」の明暗:どこで差がついたのか(2/4 ページ)
バブル崩壊、リーマンショック、コロナ禍と、平成以降、日本企業を襲った三度のパラダイムシフト。この間に、多くの「昭和企業」が明暗を分かたれた。本記事では、代表的昭和企業として、日立と東芝、ソニーとパナソニックを分析していく。
重電の両雄、日立と東芝は共に08年のリーマンショック時に大幅な赤字を計上しました。特に日立は09年3月決算で、8000億円弱と東芝の2倍以上の巨額赤字を計上します。しかも4期連続の赤字決算かつ、国内製造業における過去最大規模の赤字額でした。「リーマン後」の存続が最も危ういといわれていたほど、日立は危機にあったのです。
しかし日立はこの最悪の決算から目をそらさず、長期性資産の減損などその期に処理すべきものは何一つ先送りせず計上し、丸裸になって真正面から危機と対峙しました。川村隆社長(当時)は世界市場での公募増資を決意し、裸一貫から出直すという決意の下、資金公募行脚の先々で投資家に罵倒され恥をさらしながら再建資金を手に入れ、死に物狂いで復活にこぎつけたのでした。具体的にはITおよびデータ関連中心の収益構造への転換を図り、関連性が低い事業は売却を進めつつIT関連企業の買収などで思い切った策に出ることで、直近の半期では過去最高益を計上するまでに至っています。国内製造業過去最大規模という巨額赤字が「動かざる昭和企業」に危機感を与え、「昭和」への決別を断行させたといえるでしょう。
チャレンジせず、昭和を引きずってしまった東芝
一方で、東芝におけるリーマン以降の10年は、業績の落ち込みを正面から受け止めたとはおよそいえない、昭和大企業のおごりにあぐらをかいた悪しき企業文化のまま対応に終始します。
リーマンからの復活過程において、同社は「チャレンジ」と社内で呼ばれていた損失隠蔽が繰り返されるなど、問題先送りの実態が明るみに出て、15年には不正会計事件として大問題化します。加えて米国原発事業にからむ巨額損失問題も表面化して再び大赤字を計上し、東証二部陥落の憂き目にあうわけです。
同社は、経営トップを外部招聘(しょうへい)し、6000億円の増資を投資ファンドに引き受けてもらうことで、復活への道筋を探ります。しかし新たな株主はキャピタルゲインが目的の「モノ言う株主」であり、新体制下のリストラによって同社が東証一部復帰を果たそうとも、具体的な成長戦略を描けずに株価低迷を脱しえない経営陣に「ノー」を突き付けました。同社はここでまた、昭和企業的なガバナンスが欠如した振る舞いという同じ轍を踏んだのは周知の事実です。
東芝経営陣はモノ言う株主の提案をしりぞけようと、監督官庁の経済産業省を動かし一部大株主に圧力をかけてファンド提案に賛成させないという「禁じ手」に出てしまいます。官庁とべったりな昭和大企業の裏技は、コンプライアンスもガバナンスも存在しなかった昭和からの企業体質が何一つ変わっていないことを露呈させました。このような東芝の時代錯誤な経営姿勢には先行きの不安ばかりが募り、日立とは対照的にコロナ禍の今、再びダメ企業の烙印を押される「負け組」状況に至ってしまったのです。
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