「日本のアニメ」は家電や邦画と同じ道を歩んでしまうのか:スピン経済の歩き方(2/6 ページ)
技術や品質が「下」だとみくびっていた相手に、いつの間にか追い抜かれてしまう。そんな悪夢がやって来るのだろうか。白物家電や邦画が追い抜かれたように、「日本のアニメ産業」も負ける日がやって来て……。
後から来たのに追い越された
例えば分かりやすいのが、白物家電だ。
2000年代前半、ハイアールなど中国の白物家電メーカーが海外進出を始めた当初、日本人の多くは「どうせ故障が多いんでしょ?」と鼻で笑っていた。専門家の間でも「日本の家電メーカーの地位は揺るがない」という見方が広まっていたので、これといった対策に動くことはなかった。
当時はまだブランドは中国や韓国であっても、それらの家電の基幹部品は日本メーカーのものを使っていることも多かったからだ。要するに、肝心の技術の部分はしっかりと握っているので、「メイド・イン・ジャパン」の競争力・価値は下がらないと安心していたのである。
だが、この甘っちょろい考えが間違っていた。「日本メーカーが危ないというのは的外れだ」と専門家が声高に主張している間に、中国メーカーはメキメキと成長して、日本メーカーを買収できるようになってしまったのだ。
12年には、パナソニックがハイアールに三洋電機の洗濯機・冷蔵庫事業を売却。16年には、東芝が白物家電事業をマイディア(中国)に売却、ハイアールがゼネラル・エレクトリック(GE)の家電事業を買収した。また18年には、東芝がテレビなど映像事業をハイセン(中国)に売却した。
このような数々の買収を経ていけば当然、中国の技術力も上がっていく。「日本の優位性は揺るがない」と胸を張っていた時代から10年も経たず、「日本の白物家電は世界一」というのは思い出話になってしまった。
この構造は、日本のコンテンツビジネスにも当てはまる。実は日本映画は1960年代前半くらいまで現在のアニメと同じようなポジションだった。「制作本数をみても邦画は年間443本で世界一を示している」(読売新聞 1958年3月28日)と他国を「下」に見ていた。
実際、小津安二郎や黒澤明などの作品は、世界の映画人を魅了した。西部劇映画『荒野の7人』は『7人の侍』をリメイクしたもので、『スター・ウォーズ』も、黒澤明の『隠し砦の三悪人』からヒントを得た。宮崎駿氏や庵野秀明氏が、世界のアニメ製作者からリスペクトされ、作品や技法が模倣されるという今と同じ現象が、50年以上前の日本映画でも起きていたのである。
では、今も日本映画の優位性は揺らいでないのかというと残念ながらゴリゴリに揺らいでいる。制作費は海外の10分の1以下でマネタイズも難しい。是枝裕和監督のような世界で活躍する映画人が、「このままでは日本の映画は本当に終わってしまう」と危機感をあらわにしている。
そんな衰退する日本映画と対照的に、勢いがあるのが長らく「下」に見ていた韓国だ。アジア初のアカデミー賞は韓国作品だ。ネットフリックスで記録的なヒットをした『イカゲーム』をはじめとして、韓国ドラマは世界市場で売れるコンテンツに成長した。
90年代まで、軍事政権でエンタメ産業が発展していなかった韓国では、民主化後は日本や米国のエンタメを徹底的に研究して、国をあげてエンタメ輸出に力を注いだ。つまり、こちらも白物家電と同じで、「後から来たのに追い越された」のだ。
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