「日本のアニメ」は家電や邦画と同じ道を歩んでしまうのか:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
技術や品質が「下」だとみくびっていた相手に、いつの間にか追い抜かれてしまう。そんな悪夢がやって来るのだろうか。白物家電や邦画が追い抜かれたように、「日本のアニメ産業」も負ける日がやって来て……。
追い抜かす時代が来るかも
「ジャパニメーション」という言葉を世界に広めた『機動戦士ガンダム』がハリウッドで映像化される。これまでの『ドラゴンボール』などの実写化失敗から「やめてくれ」という声も多いが、日本が誇るアニメ『ガンダム』の再評価につながると好意的に受け取る方も少なくない。
が、実はこの作品を手がけているのは、先ほど触れたレジェンダリー・エンターテインメント、中国資本の入った映画会社だ。
本来、日本のキラーコンテンツなのだから、日本人の手で実写化して、日本人の手で世界で売っていくべきだ。ナショナリズムの観点ではなく、そのように自国で産業化しないと、「次」が続かないのだ。
帝国データバンクによれば、日本のアニメ制作会社300社の6割は従業員20人以下で、3割が売上高が「1億円未満」だ。中小零細企業だらけで、低賃金労働者が命を削って高いクオリティーを支えている。
本来、世界に売るコンテンツの要なのだから、国策としてこれらの小さな会社を統合・再編して、巨大なアニメ制作企業をつくらないといけない。企業規模が大きくなれば投資も呼び込めるし、賃金も上がる。輸出も促進される。韓国ドラマを世界に売るスタジオドラゴンがまさしくそれだ。
「日本のアニメは世界に人気」と言いながら、実際に潤っているのは版権ビジネスをしている人たちだけだ。「作り手」にはなかなかその恩恵がない。だからこそ、コンテンツを海外企業に売ってもうけるスタイルではなく、自国内でもしっかりと産業化をする仕組みが必要なのだ。
白物家電、半導体、造船、鉄鋼、そして邦画……「日本ブランドは揺るがない」「日本の技術は世界一」と叫びながら、次々と追い抜かされた産業と同じにおいが「アニメ」からも漂うと思うのは、気のせいか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
関連記事
- 賃金は本当に上がるのか? 安いニッポンから抜け出せない、これだけの理由
選挙戦が盛り上がってきたが、ビジネスパーソンが気になるのは、やはり「賃上げ」だ。賃上げを達成するために、各政党は目玉政策を打ち出しているが、その中でひときわ目を引く「謎の政策」がある。それは……。 - 日本のアニメは海外で大人気なのに、なぜ邦画やドラマはパッとしないのか
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が米国でもヒットしている。このほかにも日本のアニメ・マンガは海外市場で勝負できているのに、なぜ邦画やドラマはパッとしないのか。その背景に、構造的な問題があって……。 - 「安いニッポン」の本当の恐ろしさとは何か 「貧しくなること」ではない
新聞やテレビなどで「安いニッポン」に関するニュースが増えてきた。「このままでは日本は貧しくなる」といった指摘があるが、本当にそうなのか。筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしていて……。 - 「今日の仕事は、楽しみですか」に、なぜイラっとしたのか 「仕事が苦痛」な日本人の病
「今日の仕事は、楽しみですか」――。JR品川駅内のコンコースに表示された広告が、批判を受けて1日で終了した。なぜ多くのビジネスパーソンはこの文言にイラっとしたのか。筆者の窪田氏がその背景を分析したところ……。 - 「オレが若いころは」「マネジメント=管理」と思っている上司が、ダメダメな理由
「オレが若いころは……」「マネジメントとは管理することだ」といったことを言う上司がいるが、こうした人たちは本当にマネジメントができているのだろうか。日本マイクロソフトで業務執行役員を務めた澤円氏は「そうしたマネージャーは、その職を降りたほうがいい」という。なぜかというと……。 - 7割が「課長」になれない中で、5年後も食っていける人物
「いまの時代、7割は課長になれない」と言われているが、ビジネスパーソンはどのように対応すればいいのか。リクルートでフェローを務められ、その後、中学校の校長を務められた藤原和博さんに聞いた。 - 「世界一勤勉」なのに、なぜ日本人の給与は低いのか
OECDの調査によると、日本人の平均年収は韓国人よりも低いという。なぜ日本人の給与は低いのか。筆者の窪田氏は「勤勉さと真面目さ」に原因があるのではないかとみている。どういう意味かというと……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.