なぜペイパルはPaidyを選んだのか? 国内BNPLの今後の展望を歴史からひも解く:急成長するBNPLの業界見取り図(3/4 ページ)
前編では、なぜBNPLと呼ばれる「後払い」が急速に伸びているのかを、その課題と共にチェックした。後編では、日本国内における「後払い」の特徴をその歴史からひも解きながら考察してみたい。
なぜペイパルはPaidyを選んだのか?
そのような中、本年9月、後払い界で大きな話題をさらったニュースが出た。米決済大手ペイパル・ホールディングスによるPaidyの買収である。買収金額は3000億円にものぼるといわれている。
ここまで見てきた通り、数多くある「後払い」であるが、なぜペイパルが買収したのがPaidyだったのか。それをひも解くことで、今後の「後払い」の動向が見えてくるのではないか。
これまで「後払い」のビジネスに関わってきた経験も踏まえての推測にはなるが、以下の主に3点がペイパルを引きつける要因になったのではないかと推測できる。
一点目は確立されたユーザー基盤だ。Paidyから公表されている情報によれば、アマゾン、Qoo10、アップルなど国内70万のEC店舗への導入に成功しており、利用者アカウント数は600万超にのぼる。クレジットカードを持たない若年層などで利用が伸び続けている印象だ。
このような充実したユーザー基盤は、先述した自社での与信モデル構築においても非常に大事な要素だ。これほどのユーザー基盤をゼロから築くことは至難の業で、日本での知名度が相対的に低いペイパルにとって非常に魅力があったであろうことは想像に難くない。
二点目はユーザー体験にこだわったサービス設計だ。先述したように、住所情報に依存せず、手元のスマートフォンでメールアドレスと電話番号の入力とSMS認証のみで決済利用できるのは非常に便宜だ。日本のEC市場は約19.3兆円とされるが、その半分程度が物販以外のサービスやトラベル関連、デジタルコンテンツなどだ。この領域でも利用できる「後払い」は単純に強い。加えて返済もはがきに依存していないのがポイントだ。スマホアプリ上にコンビニでの支払い用のバーコードを表示させる機能や銀行引落機能により、ユーザーは徹頭徹尾スマホのみで完結する決済体験を得られる。
三点目はPaidyが従来の「後払い」で一般的な翌月一括払いのみならず、3回払いにも対応している点だ。しばしばクレジットカードでも見られる分割での支払いに対するユーザーからのニーズは以前から一定程度あり、Paidyはそれを捉えた形だ。海外のBNPLは分割払いを前提としていることから、ペイパルからすれば、より「BNPL的な」事業者だと映った可能性も高い。
決済事業はそもそも薄利多売のビジネスモデルである。「後払い」の原価には収納代行コストや貸倒れコストを含めて考える必要があるため、翌月一回払いのみで安定した収益を上げるのは非常に時間がかかる。そこで、何らか収益源となり得る「キラーコンテンツ」があることが望ましいが、それを担うのが「分割払い」かもしれない。国内のクレジットカード会社が分割払いやリボ払いの手数料で収益を上げているのと同様だ。
現在のPaidy3回払いではユーザーから特に分割手数料を取っていないが、将来的に4回以上の分割払いを提供し、そこで手数料を収益とするモデルを展開するのだとすれば、この点でPaidyはグローバルのBNPL事業者に引けを取らない戦い方ができる可能性がある。
なお、国内で分割払いを展開する場合には、割販法にかかる経済産業省(経済産業局)への登録、財務局とCIC(信用情報機関)などの外信との連携などが必要になるが、そのためには時間もコストもかかる。ペイパルは、Paidyがそれらにかかわる体制も既に全て整っていることに注目した可能性は高い。
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