選挙カーで、大量のCO2を排出する“大罪” なぜ日本で「選挙DX」は進まないのか:2050年のカーボンニュートラルはただの「お題目」(1/5 ページ)
第49回衆院選挙は10月31日に投開票が行われ、激しい選挙戦を終えた。期間中、風物詩の「選挙カー」をうるさいなあと感じた人も多いだろう。テレワーク、ハンコ廃止など企業のデジタル化やDXはどんどん進むのに、なぜ選挙はこんなにも「アナログ」なのだろうか。海外ではネット投票やデータを活用した選挙戦略が目立つにもかかわらず、日本に「選挙DX」が起こらないのはなぜか?
「CO2の排出量5000トン」。これは、2021年秋の第49回衆議院議員総選挙において選挙カーが排出したCO2量の試算だ。どれくらいの量に匹敵するのか? コクヨグループ31社の20年度のCO2削減量(削減活動にコロナ影響による出社制限等の稼働減含む)と同等に値する。
また、有料化から1年が経過したレジ袋のCO2削減効果と比較してみる。JR東日本は、『直営店舗でのレジ袋の切り替えにより、CO2を年間約1200トン削減できる』(日本経済新聞 19年10月8日)という。つまり、JR東がレジ袋の切り替えで「CO2の排出量5000トン」を削減するには4年以上かかることになる。
「DX」「カーボンニュートラル」とかけ離れた選挙の実態
衆院選は10月31日に投開票が行われ、激しい選挙戦を終えた。選挙の風物詩「選挙カー」からウグイス嬢が候補者の名前を連呼するのを聞いた人もいるだろう。
選挙活動の風景は、政府が掲げた「DX」や「カーボンニュートラル」への取り組みとかけ離れていたように見えてしまう。政府は8月、テレワークなどによる出勤者の7割削減の達成に向けて、企業に協力を要請した。また、昨年10月に菅義偉前首相は、内閣総理大臣に就任後、初の所信表明演説で「我が国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表明した。
つまり、政府は企業、個人に対してテレワークの推進などを含むデジタル化(DX)、およびサプライチェーン全体での脱炭素社会に向けたカーボンニュートラルを要請している、といえる。
一方、CO2排出への配慮がなされていない今回の衆院選のスタイルを見て、「政治家はDXとカーボンニュートラルを本当に推進する意思があるのか」と疑問を持つ。
CO2削減量、企業の1年間の努力が「選挙の12日間」にかき消された
現在の公職選挙法では、選挙活動のため午前8時〜午後8時で選挙カーの利用が認められている。また、街頭演説を見ると分かるが、停車している選挙カーのエンジンも切っていない。12時間、絶えずCO2を排出していることになる。
今回の衆院選において選挙カーが排出するCO2はどれくらいか。気候変動対策のサービスを提供しているリクロマ(東京都渋谷区)の試算によると、約5000トンとなった。算定した条件は以下の通り。
- 立候補者数:1051人
- 選挙期間:12日間(公示日の10月19日〜投票日前日の10月30日)
- 走行距離:1日180キロ(午前8時から午後8時までの12時間、時速15キロで走行)
- 燃費:9.8キロ/l(一般的に選挙カーとして利用されるトヨタレジアスエースバンの燃費)
※算定方法:「エネルギーの使用の合理化等に関する法律施行規則」別表第一および「地球温暖化対策の推進に関する法律施行令」の別表第一を参照 ※計算式:1051人×12日間×180キロ÷9.8キロ/l×0.0232トン-CO2/l=5374トン(約5000トン)
コクヨグループが1年間かけてチャレンジした削減量、JR東のレジ袋の切り替えによる4年以上分の削減量が、たった12日間の衆院選の選挙カーによるCO2排出量でかき消されてしまうのだ。しかもこの試算は、選挙カーに絞った場合だ。看板や紙の配布物などを含めるともっと大きな数字になることが推測される。
すでに衆院選は終わったが、政治家は「2050年」といわず、すぐに選挙DXに取り組み、選挙カーを廃止して企業や国民に「お手本」を示すべきではないだろうか。
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