パワハラを「禁止」できない日本 佐川、守るのは加害者のみか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
パワハラによる自殺事件が後を絶たない。佐川急便では、パワハラの内部通報があったにもかかわらず、十分な対策が取られなかった。パワハラ防止法が施行されているのに、なぜこのような事件はなくならないのか──?
実際、欧米では1990年代からパワハラ問題に取り組んできました。
パワーハラスメント(=パワハラ)は和製英語であり、欧米では「モビング(mobbing)」あるいは、「モラルハラスメント(moral harassment)」と呼ばれている点も大きな違いです。
スウェーデンでは、国立労働安全衛生委員会が1993年に「職場での虐待に関する規則」を制定し、モビングを「従業員に対して繰り返し行われる侮辱的な行為、見るからに悪質で非難すべき行為、それによって職場における共同体からその従業員がはじき出されてしまうような行為」と定義し、雇用者に対して法的に従業員をサポートするよう義務付けました。
また、2002年にフランスで施行された「労使関係近代化法」では、企業内におけるモラルハラスメントを規制する条文を導入し、被用者の身体的健康だけでなく精神的健康も含めて健康予防における使用者の責任を拡大した労働法改正が行われています。
条文には「繰り返される行為」と「労働条件の劣化という結果」との2つの要件が組み込まれ、同時に刑法にも1年の懲役及び1500ユーロの罰金という刑罰が定められているのです。
かたや日本ではどうでしょうか。
「パワハラ」という言葉が使われるようになったのは、01年以降ですし、いまだに「パワハラと指導の境界線が難しい」などとのたまう輩が後を絶たない。
パワハラ防止法の制定時には、企業側は「いきなり法による措置義務を課すことは慎重であるべきだ」と繰り返し、取りあえず「相談窓口」は作りましたが、そのほとんどが形骸化し、生かされていないのです。
書いているだけで鬱々としてくるのですが、以前取材した企業では「今すぐにできる」取り組みを実施していたので、ご紹介します。
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