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「愛読書は?」と質問する不毛な新卒採用を、日本人が始めてしまったワケスピン経済の歩き方(3/6 ページ)

愛読書はなんですか?――。就職採用試験で、こんな質問をする面接官が増えているという。そもそも、なぜ愛読書を聞くのがダメなのか。背景にあるのは……。

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先輩社員にかわいがられる新人

 マルクス主義にかぶれていないか調べる気満々だが、その一方で、休日の過ごし方、長所短所、子ども時代、さらに現代でいうところのキャバクラ通いまで、質問はかなり広範だ。思想信条だけではなく、「人となり」まで丸裸にしようという意図が透けて見える。

 実際、この就職ハウツー本の「第3章 採用方針と採用試験」では、企業側の5つの採用方針が紹介されているのだが、「身体強健」「学業優秀」「品行方正」と並んで、「性格温和」と「思想穏健中正」という「人となり」が挙げられている。まず、ここに登場する「性格温和」とは単に温厚な人柄という話ではない。「1人っ子」は就職に不利だというのだ。本文の記述を引用しよう。

 『妥協性に乏しいものは、仕事が円滑に運ばないのみならず、不平不満が起こり易く永続きしないから何れの方面でも嫌われる。此の意味に於いて獨り息子などはとにかく気儘に育てられ調和性を欠き、永続性が乏しいので忌避せられるることが少なくない。世の獨り子たるもの心して進まねばならぬ』


(提供:ゲッティイメージズ)

 要するに「周囲の人間と合わせられるか」ということだ。「思想穏健」も同様で、マルクス主義に限った話ではなく、キレやすくないか、理想論者ではないか、個性が強すぎないか、そして家が貧しくないか、など「内面」について幅広くチェックしていた。

 『穏健なる思想を持つてゐるといふことが何よりも大切である。感情に走り易い者、理想に捉はれ奇を好む者、何となく明るくない性格の者は好かれない。兎角家庭の裕福でない者や複雑な者が除かれるのは、確かに此の點の懸念からであることを知らねばならぬ』

 当時の企業の採用担当者は、新卒を選考する際に学業や品行方正さなどと同じくらい、「周囲と衝突しない、人あたりの良さ」を重要視していたのだ。

 ということは、「趣味・特技」などの人となりを探るような質問というのは、会社にとってリスクの高い共産党員か否かの踏み絵的な目的だけではなく、「先輩社員にかわいがられる新人」を選ぶために新卒採用の現場で広まっていった部分もあるということなのだ。

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