「愛読書は?」と質問する不毛な新卒採用を、日本人が始めてしまったワケ:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
愛読書はなんですか?――。就職採用試験で、こんな質問をする面接官が増えているという。そもそも、なぜ愛読書を聞くのがダメなのか。背景にあるのは……。
日本独自の採用スタイル
能力や適性ではなく、「協調性があるか」「みんなと仲良くなれるか」という発想で人を採用するケースは海外では少ない。「和をもってサラリーマンとす」という、日本独自の採用スタイルといえよう。
しかも、驚くのはそれが既に太平洋戦争前に確立していたということだ。よく戦後の高度経済成長期からバブルまで日本経済が右肩上りで成長をしていたのは、新卒一括採用、年功序列、終身雇用という日本型雇用のおかげだ、みたいなことをふれ回っている人も多いが、実は年功序列も終身雇用も戦前の国家総動員体制の中で確立されたシステムだ。
そして、現在にもつながる「愛読書は何ですか?」という質問をするような人物重視の選考も、戦前の世界大恐慌あたりも普通に行われていた。
戦後の日本人たちが築き上げたように思い込んでいる社会・経済システムの多くは、戦前・戦中のものを「引き継ぎ」しただけに過ぎないのだ。令和日本を生きるわれわれは、明治生まれの人々がつくってくれた「遺産」にいまだにしがみついてメシを食っている、と言っても過言ではない。
これは冷静に考えてみると、非常に恐ろしいことではないか。90年前の組織マネジメント、人材選考システムほとんどアップデートされることなく「現役」で運用されているということは、われわれの労働者に対する人権意識、労働環境、賃金などの感覚も、90年前からほとんど変わっていないということになるからだ。
実際、当時の就活ハウツー本を読んでみると、昨年当たりにネットで書き込まれていたと聞いてもまったく違和感のないような企業経営者の「本音」がゴロゴロと転がっている。以下は、前出『中等学校学生と就職の実際』の中で紹介された、今の高卒にあたる若者たちが、企業から引く手数多となっている背景の解説だ。
『中等程度の実業学校の卒業生であれば、俸給は割合は少くて済む上に、どんな仕事をさせても彼等は不平も言はずに働くし、始めにさせる仕事も難しいものでなくて簡単なのだから(此の點はタトヒ専門程度以上の卒業生を採用しても同じである)左程の長期間仕込まなくとも役に立つこと。而も年齢が若いから、専門程度や大学程度の学校の卒業生よりも個性が定まり居らず使ふ方の仕向け方で却つて使ふ方の為に心身になつて働く様になること』(同上)
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