「俺らの時代は」を繰り返す“ノスタルジックおじさん”が、パワハラ上司になりやすいワケ:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
突然だが、「ノスタルジックおじさん」をご存じだろうか。いや、知らないはず。なぜなら、筆者(窪田氏)の造語だからだ。その「ノスタルジックおじさん」が、パワハラ上司になりやすいと指摘しているが、どういう意味なのか。詳しく見てみると……。
パワハラが定着した理由
そのあたりについては、京都大学の岩井八郎教授の『経験の連鎖ーJGSS2000/2001による「体罰」に対する意識の分析ー』という論文に詳しい(参照リンク)。これは、体罰を受けた経験が、体罰に対する意識にどのような関係があるのかを調べたもので、以下のような結果が出ている。
『「暴力を受けた経験」がある者ほど「体罰」に賛成するという傾向があった。「暴力を受けた経験」がある者が「体罰」に反対するという側面は見られなかった。この傾向は、重回帰分析によって複数の説明変数の効果を検討した場合にも、統計的に有意な傾向であった。本稿の分析を通して、「暴力を受けた経験」がある者が「体罰」を肯定する点が確認された』
この結論を裏付ける話は、世の中にあふれている。有名なところでは、五輪代表の期待がかかる新体操選手のコーチが平手打ちなどの体罰をしていたことだ。実はこの人自身、現役の選手時代に体罰指導を受けていた。「言っても分からないことは体で分からせる」という指導で技術を身につけたのである。謝罪会見でコーチは、暴力は指導の一環かと問われた際には「そういう認識を持っていた」と真っ直ぐ前を向いて語っていた。
このように殴られながら育って、それなりの結果を出した人は、次世代を育成する側に回ったとき、自分がかつてやられた指導法を忠実に再現する。それがどんなに理不尽な仕打ちでも「正しい」と思いこむ。人は自分が受けた虐待やハラスメントを「まったく無意味なこと」だったとは恐ろしくて思えない。それは、自分の人生を否定することになってしまうからだ。
だから、殴られて育った人は次世代を殴るし、精神的に追い込まれて成長した人は、次世代を精神的に追い込む。次世代を潰してやろうとか、痛めつけてやろうという思いではなく、「良かれ」と思ってやる。
こういう「体罰のエコシステム」が今も現役バリバリで機能している国で、パワハラが当たり前の時代を生きた世代が管理職になったとき、部下にどんな仕打ちをするのかは容易に想像がつくだろう。
これが、日本では体罰が文化として定着したように、日本企業にパワハラなどが「必要悪」として定着した本質的な理由である。
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