「旧A社は給与が高いのに、旧B社は残業代すら出ない」を防ぐために M&Aの際、人事制度はどう統合すべきか:突然のM&A その時、人事がキーマンになる(2/4 ページ)
M&Aの中でも特に重要となる「人事制度統合」。アプローチを少しでも間違えると従業員のモチベーションダウンを招きやすく、慎重な対応が必要だ。
【1社複数制度 5つの弊害】
(1)日常業務の障害
2社の就業時間が異なる場合を想定してみよう。1日の就業時間が7.5時間の旧A社と、1日の就業時間が8時間の旧B社が合併した場合、1社2制度を温存すると、同じ職場内で勤務時間が異なりコミュニケーションが取りづらくなり、日常業務に支障をきたすこととなる。
(2)人材フローの障害
統合後の新会社で新卒を採用する場合、旧A社と旧B社どちらのルールを適用するのか、また、旧A社と旧B社間で人事異動を行う場合にはどちらの労働条件を適用するのか、といった混乱を招くこととなる。
(3)不公平感によるモチベーションの低下
同じ課長職でも、旧A社では残業手当が支給され、旧B社では残業手当が支給されない場合、明らかに旧B社の課長職は不公平感を感じ、モチベーションの低下を招くこととなる。
(4)新会社の事業戦略との不整合
旧A社では年功序列型の人事制度が残り、旧B社では既に成果重視の人事制度が導入済みの場合、旧A社の従業員に対してのみ成果を厳しく問われない年功型の“緩い制度”が温存されてしまい、合併後の会社(新会社)の事業戦略と不整合を起こす、といったことが想定される。
(5)人事管理コストの増大
1社複数制度が温存されることで、給与計算期間、給与支給日、昇給時期、賞与支給日、評価制度などの違いが生じ、合併後の人事部門の事務管理や運用コストが増大してしまうケースだ。
上記の5つの弊害のなかでも、3つ目の「不公平感によるモチベーションダウン」に注意が必要だ。特に問題になるのが「給与水準の違い」だ。同じ会社で、同じ業務や役職に就いていながら、給与水準が異なるという状態は客観的に見て「不公平」といえる。合併前、従業員はそれぞれの会社の基準で支払われてきた給与水準にある程度納得して働いてきたはずである。ところが、合併後同じ会社の中で「同じ業務や役職で給与水準が異なる」状態が発生すると、(特に給与水準が低いほうの従業員は)給与の決定基準が不公平であると感じる。給与テーブルを社内で完全に公開している企業でなくとも、従業員からは「あちら側の従業員は給与水準が高い」「うちは○万円も低い」との不満の声が出てくる。
上場企業であれば、有価証券報告書に平均年収が記載される。しかし、多くの場合、給与水準に関する従業員の認識は「伝聞」によって広がる。伝聞の積み重ねによって給与水準に関する固定観念(偏見)が形成され、そこから「不公平感」や「損得勘定」となり、嫉妬や不満が表面化してくる。このような状態が続くことは、感情・心理面で合併後の一体感が醸成できず大きな問題となる。
合併に伴う従業員への影響を最小化するために、合併当初は人事制度を一本化せず、あえて1社複数制度を適用することにした場合でも、その状態を長らく続けていると、かえって従業員のモチベーションは低下してしまう。そのため、最終的には、人事制度を統合していくことが必要となる。
人事制度の統合 留意すべきポイントとは?
次に人事制度統合を進める際のポイントについて解説したい。人事制度統合の大きなステップは次の通りだ。
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