「旧A社は給与が高いのに、旧B社は残業代すら出ない」を防ぐために M&Aの際、人事制度はどう統合すべきか:突然のM&A その時、人事がキーマンになる(1/4 ページ)
M&Aの中でも特に重要となる「人事制度統合」。アプローチを少しでも間違えると従業員のモチベーションダウンを招きやすく、慎重な対応が必要だ。
連載:突然のM&A その時、人事がキーマンになる
離職者が増加、「買収される側」の社員が反発、「買収する側」企業にも不安と不信感が広まる──M&Aで起きてしまいがちな失敗を回避するための鍵は、“人事”の仕事にあった。人事コンサルタントの桐ケ谷優氏が、「M&Aを成功に導く、人事領域の対応」について解説する。
前回はM&Aのプロセスに沿って、人事の観点からどのようなアクションが必要となるのかを解説した。今回はその中でも特に重要となる「人事制度統合のポイント」について解説したい。
人事制度統合は、M&Aや組織再編の対象となる従業員にとって最も身近で目に見えやすい変更であるため、従業員の関心も高い。そのため、アプローチを少しでも間違えると従業員のモチベーションダウンを招きやすく、慎重な対応が必要だ。
かと言って、合併した以上、従来の人事諸制度をそのまま温存し続ける訳にもいかない。人事制度が並存し続けることに伴う非効率も発生する。ここでもキーマンである人事担当者が人事制度統合をリードしていくことになる。
2社が1つになっても人事制度を「統合しない」決断はありえるのか?
人事制度統合では、一般的に、合併後の就業条件(就業時間、休日休暇・定年など)や基幹人事制度(等級制度・評価制度・報酬制度・退職給付制度・再雇用制度)、研修制度、福利厚生制度など人事関連の諸制度を統一する。
シンプルな疑問として、そもそもM&Aにおいて人事制度は必ず統合(統一)しなければならないのか? 答えは“NO”だ(※)。
(※)年金制度は合併後一定期間内に統一することが求められる
合併の場合、会社としては1社となったものの、人事制度は複数の制度を並存されておくことがある。例えば、関東を中心に事業所を展開しているA社と、関西を中心に事業所を展開しているB社が合併した場合、会社は1つになったとしても、就業規則は事業所ごとにも定めることができ、関東エリアと関西エリアで別々の就業条件を適用し続けることは可能だ。合併だけは先行して実施するが、従業員にとって影響の大きい人事制度はしばらく複数の制度を併存させておくことはよくある。
しかし、1社複数制度を長らく続けていると、組織運営上、さまざまな非効率が生じてくる。具体的には次の5つだ。
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