落合陽一が明かす「研究開発型ベンチャーの課題」 スタートアップで最も重視すべき戦略とは:人類と計算機の共生(1/3 ページ)
研究開発型ベンチャー企業としての経営課題とは何か。落合陽一さんに話を聞いた。
脱毛症(ハゲ)は男性だけでなく、多くの人を悩ませている症状だ。その一方で、決定的な治療法が確立されていないものでもある。
この脱毛症を、超音波によって改善しようという試みが発表された。日本医科大学と、筑波大学発のスタートアップであるピクシーダストテクノロジーズ(東京都千代田区)、東京・名古屋・大阪・札幌・福岡で薄毛治療を手掛けるDクリニック(東京都千代田区)の三者で共同研究されている。
これまで脱毛症の治療には投薬治療や植毛、多能性幹細胞を使った毛髪を再生する治療法、LEDや低出力レーザー照射といった発毛治療法が用いられていた。ただ、皮膚に触れない超音波技術による治療法は初だという。
11月には都内で会見も開かれ、実際に超音波技術を用いた装置が披露された。装置はヘアサロンでパーマやカラーリングをする時などに使用されている遠赤外線照射器に形が似ていて、頭皮に接触せず施術ができるのが特徴だ。Dクリニックによると、「この治療法を長期間行うことで、ミノキシジルの発毛効果が高められることを立証した」と説明する。
この超音波の波動制御技術には、ピクシーダストテクノロジーズの技術とアイデアが使われている。頭皮に照射して刺激し、毛髪の健康状態を維持する機器などを開発。アンファーと共に商品化し、改良したものを来年ころまでにコンシューマー家電として販売する構想だという。
同社の代表取締役を務めるのが、筑波大学図書館情報メディア系准教授の落合陽一さんだ。落合さんはメディアアーティストとしても活躍している。ピクシーダストテクノロジーズは2017年に、「人類と計算機の共生」を掲げ、落合さんらが設立。独自の波動制御技術を中心に、農業から介護、医療まで幅広い分野を手掛けている。
同社は、大学から生み出された多様な研究を、社会に存在する課題の解決手段として「連続的に社会実装する」ことを目指す。1つの要素技術をベースにするのではなく、音や光、電磁波といった波動制御技術をコアに、複数の技術を並行して扱う。つまり大学発の技術と、顧客を橋渡しするのが同社の役割だ。
研究開発に投資するための資金調達も続けていて、19年には約38.5億円を調達したことで話題にもなった。研究開発型ベンチャー企業としての経営課題とは何か。落合陽一さんに話を聞いた。
落合陽一(おちあい・よういち)1987年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学府)。ピクシーダストテクノロジーズ代表取締役、筑波大学デジタルネイチャー開発研究センターセンター長、准教授・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表。専門はHCIおよび知能化技術を用いた応用領域の探求。2009年にIPA未踏ユース事業に採択、IPA認定スーパークリエータ。一般社団法人未踏理事。受賞歴にWorld Technology Award 2015、MIT Technology Review InnovatorsUnder 35 Japan 2020 など多数。著書に『デジタルネイチャー』(PLANETS/第二次惑星開発委員会)、『2030年の世界地図帳』(SBクリエイティブ)など
出口戦略のストーリーまで完全に描き切る
――研究開発型ベンチャーの現状をどのように見ていますか。
ここ近年、日本では好景気が続いていて、ベンチャーキャピタルからの投資は受けやすい状況が続いています。ただ一方で、出口戦略が立てづらいのが課題です。イグジットの一つには株式上場(IPO)が挙げられますが、IPOは黒字化を続けていないとできないのが問題です。
研究開発型ベンチャーの中には、黒字化を第一の目的とはしていない企業も少なくありませんから、こうした企業にとってはIPOしにくいのが問題ですね。あとはシリコンバレーなどに比べると、M&Aも巨額になるとやりにくい部分もありますから、IPOレベルのベンチャーの買収も進んでいません。
出口戦略のストーリーまで完全に描き切れてないというのはこの社会の問題だと思いますが、われわれはそこもきちんと描いていこうと日々頑張っています。
――ピクシーダストテクノロジーズは大学と産学連携して、新しい技術や研究成果を取得できるスキームを作っていますね。共同研究契約を締結する際、貴社から相手の大学にストックオプションを付与する代わりに、特定の枠組みから生まれた研究成果は譲渡してもらう。これによって貴社はスムーズに事業化できますし、大学側にもリターンを還元できる。優れたビジネスモデルだと思います。
2018年から続けていることなので、僕としては今さら感のあることではあるのですが、4年近くがたってようやく社会や企業からの理解も得やすくなってきたと実感しています。ここ4、5年で、技術開発ベンチャーへの投資は非常に増えたと思います。こうした動きの中で大学へのストックオプション付与を手掛けているわけですが、これが可能になったのも、ひとえにベンチャーキャピタルの人々や政府の働きかけが大きかったのだと思います。
関連記事
- ホリエモンが北海道で仕掛ける「宇宙ビジネス」の展望――くだらない用途に使われるようになれば“市場”は爆発する
ホリエモンこと堀江貴文氏が出資する北海道大樹町の宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズが5月2日に予定していた小型ロケット「MOMO5号機」の打ち上げを延期した。延期は関係者にとっては苦渋の決断だったものの、北海道は引き続き宇宙ビジネスを進めていく上で優位性を持っており、期待は大きい。そのことを示したのが、2019年10月に札幌市で開かれた「北海道宇宙ビジネスサミット」だ。登壇したのは、同社の稲川貴大社長と堀江貴文取締役、北海道大学発ベンチャーのポーラスター・スペースの三村昌裕社長、さくらインターネットの田中邦裕社長、北海道大学公共政策大学院の鈴木一人教授。 - ホリエモンが北海道で仕掛ける「宇宙の民主化」 地方創生のモデルケースとなるか
2040年には約110兆円規模に成長するといわれている宇宙産業市場。宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」の取り組みとその背景を余すところなくお届けする。 - 堀江貴文に聞く インターステラテクノロジズと民間宇宙ビジネスの現在地
日本でいち早く民間による宇宙ビジネスに取り組んできたのが、実業家のホリエモンこと堀江貴文氏だ。堀江氏が創業したインターステラテクノロジズは観測ロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号機」」で、国内の民間ロケットで初めて宇宙空間に到達した。ITmedia ビジネスオンラインは堀江氏に単独インタビューを実施。「世界一低価格で、便利なロケット」の実現を目指すISTの現状や、ゼロからのロケット開発を可能にした背景について聞いた。 - 堀江貴文氏「正直、機体の動作はパーフェクト」 インターステラテクノロジズ「ねじのロケット」が同社2度目となる宇宙空間の到達に成功
インターステラテクノロジズは7月3日、観測ロケットMOMO7号機である「ねじのロケット」を打ち上げた。同機は午後5時45分ころに打ち上げられ、高度約100キロの宇宙空間に到達した。 - ホリエモンが斬る「ビットコインで大損した人たちを笑えない事情」
「日本の義務教育で行われている教育の大半は、意味がない」と語るホリエモン。「ビットコインで大損した例は、笑い話ではない」と話す。 - ホリエモンが「次の基幹産業は宇宙ビジネスだ」と断言する理由
北海道大樹町で観測ロケットと超小型衛星打ち上げロケットを独自開発しているインターステラテクノロジズ。同社ファウンダーのホリエモンこと堀江貴文が宇宙ビジネスが自動車産業などに代わって日本の基幹産業になる可能性を語る。日本が持つ技術的・地理的なポテンシャルの高さがあった。 - 堀江貴文氏「積み重ねが結果に結びついた」 インターステラテクノロジズ「TENGAロケット」が宇宙空間に到達
ホリエモンこと堀江貴文氏が出資する宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズは7月31日午後5時、観測ロケット「MOMO(モモ)」6号機である「TENGAロケット」を打ち上げた。同機は高度92キロに到達。ISTにとって今月3日のロケット打ち上げと合わせて、2回連続での宇宙空間到達となった。 - インターステラテクノロジズのロケット「えんとつ町のプペル MOMO5号機」、打ち上げ実施も宇宙空間に到達ならず
堀江貴文氏が出資する宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズは6月14日、小型ロケット「えんとつ町のプペル MOMO5号機」を打ち上げた。同機は午前5時15分に打ち上げられたものの、およそ1分後にエンジンを緊急停止させ、海上に落下。同社によれば到達した高度はおよそ11キロで、高度100キロの宇宙空間には到達しなかった。 - ホリエモンが政治家に頭を下げてまで「子宮頸がんワクチン」を推進する理由
ホリエモンはなぜ「子宮頸がんワクチン」を推進しているのだろうか。その裏には、政治に翻弄された「守れるはずの命」があった。 - インターステラ稲川社長が語る「SpaceXの偉業を支えた“天才技術者”」 民間による有人宇宙飛行成功の原点とは?
米国の宇宙ベンチャー・SpaceXはNASAの宇宙飛行士2人を乗せた宇宙船クルードラゴンの打ち上げに成功した。アメリカからの有人宇宙飛行は2011年のスペースシャトル以来9年ぶり。民間企業が開発を主導した有人宇宙船が国際宇宙ステーションに接続するのは初めてのことだ。 - 宇宙開発は製造業からインフラ・情報産業へ――インターステラテクノロジズとアクセルスペースが描く宇宙ビジネスの展望
北海道大樹町の宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ(IST)と、超小型人工衛星事業に取り組むアクセルスペースのトークセッションが、4月20日にオンラインで開催された。ISTのこれまでの道のりと、今後の宇宙開発の展望などを書き下ろしたISTファウンダーの堀江貴文氏の著書『ゼロからはじめる力 空想を現実化する僕らの方法』(SB新書)の出版を記念したものだ。セッションの模様をお届けする。 - インターステラが今夏に「ねじのロケット」を打ち上げ 花キューピットのバラを宇宙空間へ
インターステラテクノロジズは、6月14日に打ち上げた「えんとつ町のプペル MOMO5号機」に続き、2020年夏に次の観測ロケット「ねじのロケット」を打ち上げると発表した。 - ホリエモン出資のロケット「MOMO5号機」が5月2日に「打ち上げリベンジ」 新型コロナの影響で無観客打ち上げ
ホリエモンこと堀江貴文氏が出資する北海道大樹町の宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ(IST)は4月20日、小型ロケット「MOMO」5号機を5月2日に打ち上げると発表した。 - 新型コロナで苦渋の決断――ホリエモン出資の宇宙ベンチャー・インターステラ稲川社長が“打ち上げ延期決定前”に明かしていた「人材育成と成長戦略」
北海道大樹町の要請によって延期になった国産小型ロケット「MOMO5号機」の打ち上げ――。ホリエモン出資の宇宙ベンチャー・インターステラテクノロジズは同機の打ち上げを、宇宙事業が「実験」から「ビジネス」に進化する転換点と位置付けていた。ITmedia ビジネスオンラインは4月20日の時点で稲川社長に単独インタビューを実施。同社が進める人材育成、今後の成長戦略についてのビジョンを聞いていた。延期とされた5号機の打ち上げが、同社や日本の宇宙産業にとっていかなる意味を持っていたのかを問い掛ける意図から、その一問一答を掲載する。 - ホリエモンとの出会いが人生を変えた――インターステラ稲川社長が語る「宇宙ビジネスの未来」
7月13日に小型ロケット「MOMO」4号機を打ち上げるインターステラテクノロジズの稲川貴大社長が語る「宇宙ビジネスの未来」とは? - ホリエモン出資のロケットを開発、インターステラ稲川社長が目指す夢「早期に小型衛星ビジネスに参入」
民間企業が開発したロケットとして国内で初めて高度113キロの宇宙空間まで到達したインターステラテクノロジズの稲川貴大社長が単独インタビューに応じた。 - ホリエモンが北海道“ロケットの町”で次の一手 「堀江流レストラン」開業に奮闘
日本の民間ロケットとしては初めて高度100キロの宇宙空間に到達したホリエモンロケット「MOMO3号機」。ホリエモンこと堀江貴⽂氏が、ロケット打ち上げでも縁のある人口5700人の「北海道⼤樹町」で、ロケット事業に続く“次の一手”を繰り出そうとしている。 - 僕の足を引っ張らない社会を作る――ホリエモンが演劇をアップデートする理由
ホリエモンこと堀江貴文氏が主演を務め、現在公演中のミュージカル『クリスマスキャロル』。そもそもなぜホリエモンは芝居をやっているのだろうか? その真意を探った。 - 超小型衛星4機を打ち上げ アクセルスペース中村友哉CEOが語る「民間宇宙ビジネスの未来」
超小型人工衛星を活用した宇宙ビジネスを展開するアクセルスペースが、自社で開発した衛星「GRUS」4機を、3月20日に打ち上げる。複数の同型衛星を一度に打ち上げるのは、日本の企業では初めてだ。アクセルスペースの中村友哉氏、経産省、JAXA、NASAなどに民間による宇宙ビジネスの未来を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.