EMSって胡散臭さい? 科学で脱却の「SIXPAD」に聞く、次の狙いとは?:家電メーカー進化論(4/7 ページ)
EMS機器ブランド「SIXPAD」を手掛けるのは、東証マザーズに上場するMTG。EMSの世界的権威である京都大学 森谷敏夫名誉教授の支持を仰いでEMS市場に参入し、市場を代表するブランドへと成長。SIXPADブランドの今後の事業展望などを、ブランドマネージャーの熊崎嘉月氏に聞いた。
ランニングコストがなく使いやすい新世代SIXPAD
独自のテクノロジーと高いデザイン性を備えたことで大ヒットしたSIXPADだが、大きな課題があった。それが「専用高電導ジェルシート」を使う仕組みに対する利用者の不満だ。
SIXPAD製品は、ジェルシートを本体へ貼り、身体へ貼り付けて利用する。このジェルシートは、本体を身体へ固定するほか、本体からの電流を通過させて筋肉へ伝える役割を果たす。このジェルシートが消耗品(Abs Fit2は4180円、定期送付で3344円)で月に1回交換する必要があり、利用者にはランニングコストとなる。買ってみたものの、ジェルシートの買い替えが面倒で使わなくなるユーザーも少なくなかったそうだ。
「SIXPADを発売したときから、ジェルシートに代わるものを開発していました。ジェルシートを使わない方法としては、銀電極を使う方法もありますが、金属なので錆びやすいほか、金属アレルギーの方が使えない、通電性がそこまで良くないという課題があります。利用のたびに洗濯ができる“布”にできないかと開発を進め、出来上がったのが『Eledyne(エレダイン)』という電極です」(熊崎氏)
エレダインは、染色技法を応用した特殊加工による導電性繊維を電極にした、SIXPADの独自テクノロジー。21年6月に発売された「SIXPAD Powersuit Abs/Hip&Leg」で製品に採用した。付属のスプレーボトルに水を入れて電極部分を濡らすだけで通電させられる。体にフィットしやすい伸縮性に優れた素材を採用し、コルセットのように腰に巻きつけて使えるので、家事や仕事をしながら使ったり、ほかのトレーニングとの併用も可能だ。
「SIXPAD Powersuitシリーズは、6月に発売した途端に欠品になってしまうほど人気になりました。このヒットの要因は、やはりジェルシートを使わない点だと思っています。布なので水もしっかり浸透しますし、金属アレルギーもなく、洗濯もできる。この開発に成功したことが、今後のEMS製品開発という面でも一番大きな岐路になっていると思います」(熊崎氏)
さらに21年からは、新しい取り組みもスタートした。サブスクリプションモデルの「MTGライフプラン」だ。例えばSIXPAD Powersuit Absは通常価格3万8800円だが、「MTGライフプラン」なら月額600円(初回のみ3400円・60回払、分割手数料はMTGが負担)から利用できる。さらに買い替え時の下取りサービスや1年間の無料保証も用意されている。
「いろいろな方々にインタビューする中で、学生さんから『SIXPADを使いたいけど高くて使えない』と言われることが多くありました。さらに従来のジェルシート製品は、毎月3000円程度かかっていたので、もっと手軽に使っていただきたいと定額プランを始めました」(熊崎氏)
SIXPAD PowersuitシリーズのAbsとHip&Legの両方を月額プランで利用しても月額1500円。従来モデルのジェルシート代金よりも安く、本体を利用できる。使い勝手の良さと定額サービスの導入が、SIXPADブランドのさらなる拡大を牽引しているのだ。
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