「前任者がやらかしたことを検証してはいけない」 なぜ日本の会社でタブーなのか:スピン経済の歩き方(7/7 ページ)
「前任者がやったことを細かく検証してはいけない」――。多くの日本企業でこのような慣習があるが、なぜ責任の所在をうやむやにするのだろうか。背景を探っていくと……。
前任者のやり方を「前ならえ」で続ける
もちろん、前任者への敬意を持つことは大事であることは言うまでもない。その人がそのときは良かれと思って判断をしたこと、決断したことを「後出しジャンケン」的に軽々しく批判をすることは避けるべきだ。これらはチームワークや上下関係を重んじる、日本人の美徳でもある。
が、この「前任者批判のタブー化」が、日本組織の「前例踏襲主義」をつくってきた部分もあることを忘れてはいけない。サラリーマンの皆さんは分かるだろうが、前の人が決めたプロジェクトは「効果もありそうだし、問題も起きてないんだからいいんじゃない?」という感じで、惰性で続けられてしまっていることが、かなりあるはずだ。
金融庁の「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」(令和2年6月)によれば、地域銀行104に対して、「IT投資管理」について質問をしたところ、PDCAを行う体勢があると回答した企業は78.8%に及んでいる。しかし、「システムコストの妥当性について第三者評価(コンサル含む)を受けているか」という質問に「いいえ」と回答したのは63.5%、「5年超のIT投資計画を策定しているか」にも「いいえ」が71.2%、「IT投資後の効果測定結果に基づき廃止したシステムはあるか」も「いいえ」が63.5%だ。
つまり、IT投資について「PDCAサイクルを回している」と胸を張る一方で、その検証は第三者を入れずに身内がお手盛りで行なっていて結果、無駄の削減もできず、中長期的な計画もたてられていないのである。
「一定の効果はあった」を繰り返しながら、第三者による検証などを行わせないアベノマスクや、「永久決別」を宣言しながら、田中氏がこれまで何をやってきたのかという検証を行わない日大とまったく同じことが、企業のDXなどIT投資の現場でも行われているのだ。
前任者のやったことを検証しないでその方針を踏襲することは、もしこの前任者が破滅の道を進んでいたら、後続の人間も「前ならえ」をしてそこへ突っ込んでいくということだ。
日本経済がこの30年、ほとんど成長をしていない原因についてはさまざまな考察があるが、もしかしたら本質的なところでは、日本の経済人たちが、いつまで経っても、前任者のやり方を「前ならえ」で続ける方法から抜け切れていないからではないのか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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