「前任者がやらかしたことを検証してはいけない」 なぜ日本の会社でタブーなのか:スピン経済の歩き方(6/7 ページ)
「前任者がやったことを細かく検証してはいけない」――。多くの日本企業でこのような慣習があるが、なぜ責任の所在をうやむやにするのだろうか。背景を探っていくと……。
報復の回避
そして、もう一つあるのは「報復の回避」だ。前任者のミス、不手際、不祥事などを、後任者が叩いてしまうことは、その前任者のシンパやグループの人間から恨まれて当然、報復される。ゴーン氏の悪事を世間に知らしめた西川広人氏に対して日産内部から「クーデターだ」「同じ穴のムジナ」などの不満の声が噴出して最終的に、役員報酬を不当に多くもらっていた問題が追及されて社長の座から引きずり下ろされてしまったケースなどが分かりやすいだろう。
だから、社長をはじめ経営層は、「前社長」「前会長」など経営の表舞台から一線を退いた人への言及には、非常に神経を尖らせる。
筆者は報道対策アドバイザーとしてこれまで300件以上のメディアトレーニングをしてきたが、その中には、新しく社長に就任するような人が多くいる。新社長になるとインタビューや会見がグンと増えるし、責任も重くなる。そこで筆者が記者役としてリスキーな質問をして不適切な発言がないかとか、誤解を与えるような表現にならないか、などのチェックをするのだ。
そんな新社長メディアトレーニングの中で、実は最もピリッとした緊張感が漂うのが、「前社長」について言及するときだ。それまで淀みなくペラペラとしゃべっていたような人でも、「前社長の時代には不祥事が起きていますが、どんな組織的な問題があったと考えていますか?」とか「前社長は新規事業で大きな損失を出しましたが、この経営判断のミスについてはどう考えますか?」など「前任者のやらかし」に関する質問を投げかけると、急に言葉につまったり、回答がたどたどしくなったりする。
前の社長やそのグループが不快になるような表現になっていないかとか、社内、取引先からどう受け取られるかなど「関係各位」の反応が頭をよぎって、心が激しく動揺してしまうのである。組織人にとって、「前任者のやらかしたこと」はなるべく避けて通りたい、触れることもはばかられる「タブー」なのだ。
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