デジタル庁創設で何が変わったか? 「仲良くないけど期待しかない」府省庁の胸の内:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」 “政府とIT”編(2/4 ページ)
元メルカリCIO長谷川秀樹氏が、IT改革者と語る「IT酒場放浪記」。今回のゲストは、農林水産省のITテクニカルアドバイザーを務める坂本俊輔氏。他の府省庁のIT人材にとって、デジタル庁はどんな存在なのか? 期待や課題、おカネの話まで──「政府とIT」の実情を聞いた。
「そんなこともできないの?」から、変われるか
坂本: デジタル庁創設による大きな変化はもう一つあります。法令改正を含めた調達改革に取り組むことがミッションとなったことです。今までは法令を変えることなく、調達の柔軟化といって現行法をいろいろ解釈することで、少しでもうまくIT調達をしていこうとしていました。
その背景には、会計法というITの人間からするとものすごく強固な壁がありました。「こういうIT活用をするなら、こういう契約をするべきだ」という定石が通用しない。会計法は累々と積み重ねられてきた不適切な発注や癒着に対する防壁で、必要な法令ではあります。しかし、かつて民間にシステムを丸投げしていた政府の悪しきモデルがベースとなっていて、今となってはミスマッチが発生しています。
例えば政府では、いまだに従量課金契約ができないんですよ。
長谷川: それじゃあ、パブリッククラウドも使えないじゃないですか?
坂本: パブリッククラウドを使うには、間に1社入ってもらい、その会社に従量課金の変動リスクを取ってもらうんです。
長谷川: ……。
坂本: 「そんなこともできないの?」ということが、政府には山ほどあるんです。それを知らずに民間から優秀なIT人材が入っても、能力を発揮する土俵に立つ前にがっかりして去っていくということが起こり得るんです。
法令を変えて、調達改革に取り組むのは本当に大変なことです。でも、(デジタル庁により)これまでにない大きな改革ができるのではないかと期待しています。
デジタル庁と各府省庁の関係
坂本: デジタル庁と各府省庁は決して仲が良いとはいえません。実は、9月のデジタル庁発足に伴い、各府省庁にいた政府CIO補佐官が廃止となりました。これが各府省庁にとってどれだけ大きな影響を及ぼすか把握しないまま方向性を決めたので、各府省庁が反発したんです。それに対してデジタル庁準備室は、「必要なら自分で予算をとって雇ってください」と。
長谷川: 「独自に雇わないでデジタル庁の言う通りにして」よりは良いですね。
坂本: そうですね。ただ、実はギリギリまで「政府CIO補佐官たちをデジタル庁で雇って各府省庁を支援していく」というニュアンスの話もあったのです。それが、8月中旬になって、実はほとんど雇わないことが明らかになりました。
言葉は悪いですが、デジタル庁をあてにしていなかった府省庁は独自に採用を進めていて、大きな問題にはなりませんでした。デジタル庁をあてにしていた府省庁は、IT活用力がガクンと下がるリスクを抱えてしまった。
デジタル庁発足により、デジタル予算に関して(デジタル庁の)許可がなければ調達できないという強力なガバナンスが効くようになりました。しかし、より身近な仕様書作成の支援など、現場の実行推進体制は失われかねない状況でした。
結局、デジタル庁だけがガンガン行っても、政策を握っている各府省庁が追随できなければ良い姿にはなりません。各府省庁側の体制を維持、強化しないと、この国のデジタル化は本当に破綻する。私は政府CIO補佐官が廃止されたタイミングで、「デジタル庁と連携し、農林水産省のDXを進める」という道を選びました。
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