デジタル庁創設で何が変わったか? 「仲良くないけど期待しかない」府省庁の胸の内:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」 “政府とIT”編(3/4 ページ)
元メルカリCIO長谷川秀樹氏が、IT改革者と語る「IT酒場放浪記」。今回のゲストは、農林水産省のITテクニカルアドバイザーを務める坂本俊輔氏。他の府省庁のIT人材にとって、デジタル庁はどんな存在なのか? 期待や課題、おカネの話まで──「政府とIT」の実情を聞いた。
役人はデジタル化について、本当はどう思っているのか
長谷川: 役人は国のデジタル化に対して本当はどう思っているのでしょうか?
これは私の想像ですが、みんな東大とか出ていて頭がいいので、デジタル化を進めた方がいいことは分かっている。でも、デジタルがどうのこうの言うと高齢者の票が集まらなくなる。だから、なかなか思い切った改革が実行できないのでしょうか?
坂本: 本当は違うと思っているのにやらざるを得ない、思考停止してしまっている人は多いと思います。民間企業にもそういう人はいると思いますが、役人の方が自分の気持ちを押し殺して仕事をしている割合が高い気がします。
長谷川: ドラマ『日本沈没』に出てくるような血気盛んな役人は実在するのでしょうか?
坂本: 国家公務員になる人はもともと強い思いを抱いています。「これだ」という政策に対して、ものすごい熱量を発揮する人は山ほどいます。
しかし、ことデジタルに関しては、少なくともプロパーで「日本のITをどうにかしたい」と思って入ってきた人はほぼいません。だから、ITの仕事にアサインされた時点で“やらされ仕事”になってしまう。何かおかしいと思っても、そもそも熱量がないので、矛盾点などが生じてもスルーしてしまうケースが多いのです。
農林水産省も現在は、IT体制の強化にかなり力を入れています。しかし、既存職員の異動の場合は「ITをやりたい人はいない」という前提で考えなければならないのがツラいです。
長谷川: デジタル庁ができたことで、今後は「デジタルで日本を変えてやるぞ」という学生が入ってくるかもしれませんね。国家公務員試験に受かるくらい頭がいい人って、脳みそにデジタルのことも入るキャパシティーがあると思うんです。「デジタルなんて必須科目の一つやんけ」みたいなノリでやってほしいな。
坂本: おっしゃる通りで、国家公務員試験にも必須科目としてデジタルを入れたらいいと思っています。実際に、そういった検討も行われています。一般教養としてデジタルを当たり前に使いこなせる組織にしていきたいですね。
行政サービスのUI/UX、どうしたら改善できる?
長谷川: 国はヤフーのようなネット企業に発注してほしいです。今のSIerが全員悪いわけじゃありませんが、UI/UXにおいてはネットサービスの人たちの方が100万倍いいものを作れると思います。
坂本: 国が提供するサービスのUI/UXはひどいですよね。数年前までUI/UXにお金を使うという発想はゼロで、財務省はUI/UX改善に予算をつけることを認めませんでした。「作ったサービスをモニタリングし、どこで離脱しているかトレースする」というネットサービスでは当たり前のことも、数年前までほとんどなされていませんでした。
ただ、数年前からは行政システムにおいてもUI/UX改善は大事だという発想が生まれ、民間のネット企業からUI/UXに強い人材をCIO補佐官に迎えるなど、問題の棚卸しから始めました。実際、ヤフーが国のサービスを作ってくれるかと言うと、事業モデルが違うので難しいと思いますが、東京都の副知事もヤフー出身の方ですし、そういう背景を持った方々が行政側に入ることで、少しずつ改善が進んでいるのは間違いありません。
デジタル庁もそうですね。CTOに就任したGREEの藤本真樹さんなど、優秀な人たちが集まってきている。とてもいい流れだと思います。
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