リーマン前も現れた「二極化相場」が今年も発生? グロース株に忍び寄る利上げの“影”:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
コロナ禍が招いた「二極化」は業界だけではない。金融緩和の結果「グロース株」が選好され、「バリュー株」は割安段階で放置されるという相場の二極化も招いた。このような動きはリーマンショックの前夜にも現れていた。グロース株の不振がこの先の経済的なショックを示唆する可能性もある。
利上げがグロース株の株価下落をもたらす理由
それでは、政策金利の上昇がなぜグロース株の下落をもたらすのだろうか。これには大きく分けて2つの見方が存在する。
まずは、企業から見た利上げ局面について説明する。グロース企業は、一般的な企業と比較して、収益の成長スピードが早い。そうすると、年換算した企業の成長率よりも市中の金利が安ければ、支払う金利と成長率の格差がいわゆる「利ザヤ」となる。そのため、金融緩和局面において、このようなグロース企業は借入に対し積極的となるだろう。その資金を事業や設備投資等に充てることで、さらに成長率が高まるという好循環が発生するからだ。
一方で、利上げ局面ではこれと逆のことが発生する。金利と会社の成長率のサヤが縮まったり、逆ザヤとなると企業は借入に対して保守的になるだろう。そうすると、会社が設備投資や顧客獲得に使える資金が少なくなり、下方修正せざるを得なくなる。その結果、緩和局面で設計された経営計画を達成することが難しくなり、株価下落をもたらすということになる。
もう1つの見方は、投資家からみた利上げ局面だ。基本的には上記と同じことを別の観点から繰り返すだけではあるが、こちらは数式で記される分だけシンプルだ。ファイナンス分野では、CAPMモデル(Capital Asset Pricing Model)が一般的である。これは、投資家が高いリスクの商品に手を出すとき、高いリターンを期待するというモデルである。
そして、その肝となるのが「リスクフリーレート」つまり、長期国債の利回りだ。例えば、企業の成長率が年間で3%であったとして、長期国債の利回りが年間4%であった場合、わざわざ株価暴落のリスクをとってまでその企業へ投資することはないだろう。つまり、利上げは、無リスク資産とされる国債の利回りを向上させ、投資のハードルを高める変数として機能するイベントであるということになるのだ。
リーマンショックが発生したのは、08年9月であるが、少なくともその06年の時点から利上げに伴う二極化相場が現れていた。今回のグロース株とバリュー株のかい離が顕著になってきたのは21年以降である。
そうすると、今年の後半から来年にかけてはグロース株のさらなる下落と、そこから少し遅れて全体相場が下落に転じてくる可能性も懸念される。アフターコロナということでアクセルをかけたい企業も少なくはないだろう。しかし、今のタイミングで設備投資などに多額を投じてしまうことは、米国をはじめとした各国における金融引き締めによって大きなダメージとなる可能性もあり、注意が必要だ。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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