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世界初! 道路も線路も走る「DMV」が登場して、何が変わろうとしているのか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/8 ページ)

2021年12月25日、徳島県と高知県を結ぶ「阿佐海岸鉄道」で、鉄道と道路を直通できるDMV(デュアル・モード・ビークル)の運行が開始された。旅客用としては世界初の実用化で、国内外から多くの乗りもの好きが訪れるだろう。しかし観光地になるためには、まだまだやるべきこともたくさんあると感じた。

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DMVが世界初の理由

 バスを線路に乗せて走らせようという構想は古くからあった。ドイツでは1950年代に鉄道と道路を直通するバス「シトラス・バス」が実用化されていた。日本でも60年代に国鉄が「アンヒビアン・バス」と名づけて導入を検討し、試作車まで作っていた。

 アンヒビアンは英語で「両生類」だ。鉄道と道路の両生という意味だった。しかし、両生類というなら、現在では東京・横浜・山中湖などで実用化された水陸両用バスのほうが両生類の意味に近い。

 それはともかく、「シトラス・バス」も「アンヒビアン・バス」も、構造としてはバスの車体をジャッキアップして鉄道用台車を後付けする方式だ。1台で完結していない。しかも鉄道台車の脱着に手間がかかった。ドイツでは13年間も運用されたけれども廃止。国鉄は実用化に至らなかった。

 現在のDMVの原型は06年にJR北海道が試作した「サラマンダー901」だ。JR北海道で当時の副社長だった柿沼博彦氏が、閑散区間のコスト削減策として「マイクロバスを線路に乗せよう」と考えた。すでに保線用の軌陸車は存在したから、その技術を取り込んで、1台で鉄道モードと道路モードを直通できる車両として開発した。これが「DMV(デュアル・モード・ビークル)」の由来となった。

 JR北海道のDMVが試験的な営業運行を始めると、全国の赤字ローカル線を抱える自治体からも注目された。実際に貸し出して試験運行も行った。しかし、どれも実用化には至らず、実験に終わってしまった。真剣に導入したローカル鉄道は廃止され、実験のみにとどめてDMVを却下したローカル鉄道は、別の経営改善に取り組んで今日に至る。つまりDMVは赤字ローカル線の起死回生策にはならなかった。

 やがてJR北海道も経営難となり、15年にDMVも含めた新規技術開発が中止された。しかし、ローカル線にとって採用の選択肢になる。実用化直前の技術を廃れさせたくない。国土交通省がDMVの研究成果を引き取り、技術検討会を継続した。

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