美容師の働き方はなぜブラックなままなのか──土日休みにこだわる人気店が、業界に問う課題:3年で5割以上が辞める(5/5 ページ)
土日は休めなくて当然、働き方はブラックで当たり前──そんな美容業界の在り方に警鐘を鳴らすのは、日曜定休の人気美容院を経営する海野貴裕さんだ。海野さんに、これまでのキャリアで培ってきた働き方への考え方や、顧客との向き合い方を聞いた。
緊急事態宣言下、全ての思いを託して送ったメッセージ
海野さんは、「効率良く仕事ができているのは、SALON BOARDのおかげと言っても過言ではない」と語る。
特に重宝しているのは、メッセージ機能だという。顧客データ分析機能と併用すれば、来店回数など何らかの条件で絞った人たちだけに特別なメッセージを送れる。
海野さんのマイルールは、リクルートが用意した定型文を使わないこと。「またのご来店を心よりお待ちしております」なんて送ったらおしまいだ。詩をしたためるように、タイトルや本文、改行や句読点の位置にもこだわっている。
送るのは、ここぞという時だ。20年5月、1回目の緊急事態宣言が出てすぐのタイミングで、1週間先の予約が空いた。どうしようもない話かもしれない。だが、「自営業は一つの失敗が死に直結する」と考え、命懸けで予約が取れない店を築き上げてきた海野さんは、危機感で頭がいっぱいになった。そのとき全ての思いを託して、「このメッセージが皆さまに届きますように」と題したメッセージを送った。送った瞬間、開封率は通常の約5倍に伸びたという。
秘策は、使っているシステムを好きになること
海野さんの美容院は、すでに新規顧客やリピーターを増やすフェーズを脱している。技術や接客を磨くのは大前提として、そんな海野さんだからこそ言える、顧客を増やすための秘策は何か。それは、とにかく使っている顧客管理システムを好きになることだという。
海野さんは、SALON BOARDの顧客管理機能を使い、全顧客のデータを一つの項目も漏らさず正確に入力している。顧客データを眺めていると、お客さん一人一人の顔や会話が浮かんでくるという。だから、全てのお客さんをフルネームで呼べるし、細やかな接客ができる。
データを整備することの大切さは、ドン・キホーテで学んだ。
「僕は守りを固めないと攻められない性格で、倉庫整理や在庫管理をしっかりしてから売るタイプでした。そこを頑張っても売り上げに直結しないだろうと思われるかもしれませんが、倉庫が散らかっていると在庫管理がしにくくなり、滞留品が増えてしまいます。巡り巡って売れなくなるんです」
今は、例えば一人でも誕生日のデータが抜けていると、「このままでは眠れない」と思うほど落ち着かないという。
「誕生日を入力していないと、そのお客さまの年代が分かりません。データは正確に打ち込んだものが蓄積されてこそ、ようやく使いものになる。一朝一夕では無理。とにかく最初から意識して打ち込むことが大事なんです」
積極的にツールを活用し、当たり前とされている働き方に疑問を投げかける海野さん。課題の多い美容業界の変革の糸口が、その姿勢にあるのかもしれない。
著者:酒井真弓
ノンフィクションライター。アイティメディア株式会社で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle Cloud公式エンタープライズユーザー会「Jagu'e'r(ジャガー)」のアンバサダー。
著書『ルポ 日本のDX最前線』 (集英社インターナショナル) 、『DXを成功に導くクラウド活用推進ガイド CCoEベストプラクティス』(日経PB)、『なぜ九州のホームセンターが国内有数のDX企業になれたか』(ダイヤモンド社)。
関連記事
- 「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」 両者を分ける“4つのスキル”とは?
日本企業はなぜ、「部下を育てられない管理職」を生み出してしまうのか。「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」を分ける“4つのスキル”とは? 転職市場で求められる優秀な管理職の特徴について解説する。 - 崩壊寸前だったVoicy 離職率67%→9%に立て直した人事責任者が語る“人事の本質”
日本の音声コンテンツ市場の先頭を走る、音声メディア「Voicy」。3カ月で利用者数が2.5倍になるなど、コロナ禍で驚異的に成長している。しかし、たった1年半前は離職率が67%にのぼり、組織崩壊寸前だったという。そんな中でVoicyに入社し、抜本的な人事改革を行ったという勝村氏。一体どのような改革を行ったのか──? - 「指示待ち」「官僚的」な社風が一変 湖池屋の好業績の陰に“人事改革”あり その中身は?
湖池屋の業績が伸びている。もとは「指示待ち」「官僚的」だった社風を改革したことが、要因の1つのようだ。組織の文化や風土の変革など、湖池屋を変えた人事改革に迫った。 - 日本に「雑務ばかりの職場」がはびこる背景にあるもの
なぜ、職場から「雑務」がなくならないのか? 350以上の企業や自治体、官公庁などでの組織や業務の改革支援を行ってきた沢渡あまね氏が、「雑務ばかりの職場」を生む背景を8つに分けて考察し、その解決策を紹介する。 - 3つの“あるある” 「礼儀という名の雑務」に時間を取られていませんか?
日本の組織には、ビジネスマナーや礼儀という名の雑務が多い。本記事では、実際のビジネスシーンでよくある雑務を挙げながら、どうしたら不要な雑務をなくし、スマートに働けるのかを考える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.