美容師の働き方はなぜブラックなままなのか──土日休みにこだわる人気店が、業界に問う課題:3年で5割以上が辞める(4/5 ページ)
土日は休めなくて当然、働き方はブラックで当たり前──そんな美容業界の在り方に警鐘を鳴らすのは、日曜定休の人気美容院を経営する海野貴裕さんだ。海野さんに、これまでのキャリアで培ってきた働き方への考え方や、顧客との向き合い方を聞いた。
海野さんはこう説明する。「美容学校も、現場で使わない技術をたくさん教えてくれますよ。美容師国家試験の実技では、グラデーションボブというワカメちゃんのようなカットや、オールウェーブセッティングという1960年代に流行った今どき絶対に使わないパーマなどが出題されます。なぜそんなことが続いているのか。『今まで成功してきた人たちは全員これをやってきたんだから、君たちもやるべきだ』という考えが根強くあるからです。現場からすれば、せめてシャンプーの仕方をきちんと教えてくれたほうがよっぽど助かります」
美容学生が現場に出てすぐできることといえば元気なあいさつと掃除くらい。だが、店に一から人材を育てる余力はほとんどないのが実情だ。
課題は多く、それぞれが非常に根深い。海野さんにとって美容師業界を覆す第一歩が、土日休みを増やし、子どもと過ごせる休日を当たり前にすることだ。土日休みを定着させるまでのプロセスは、業界にはびこる課題を一つ一つ解決していくことに他ならない。
「ほしい」と言われたものは作らない──美容業界DXの裏側
美容院において、一般企業でバックオフィスと呼ばれる業務の多くは店長が担う。その負荷が尋常でないことは想像に難くない。
例えば、予約管理は職人技の領域だ。カット、カラー、パーマ、トリートメントなど複数のメニューが積み重なる上、対応できるスタッフや施術時間も考慮しなければならない。店長クラスでないと判断がつかないことも多く、完全に属人化している。
海野さんがオーナーを務めるヘアガーデン テンダネスでは、リクルートが提供するSALON BOARD(サロンボード)というシステムで属人化を解消している。予約や顧客の管理、会計、集客施策などの業務を一気通貫で効率化するサービスだ。ホットペッパービューティー掲載サロンは無料で利用できることも手伝って、現在約11万の美容院、ネイルサロンなどに利用されている。
人による予約管理とSALON BOARDによる予約管理、精度が高いのは後者だという。人による予約管理の場合、特に席数が多い美容院では、本当は取れない予約を取ってしまうミスも起きている。SALON BOARDの場合、各メニューの施術時間を自動計算し、席数や機材数の制約も考慮して、それ以上の予約が入らないように制御できる。
SALON BOARDの企画担当マネージャーを務める長尾美樹さんは、多くの美容院に足を運び、業務を知り尽くした上で開発を進めている。
「美容師の皆さんから『こんな機能がほしい』と言われることもあります。でも、言われた機能をそのまま作るのではダメ。『こんな機能がほしい』という言葉の裏には必ず何か理由があるんです。いつ、誰が、どういう目的で、何を見て、どう判断してその言葉に至ったのか細かく把握し、問題の主因を探り当てることを意識しています」
技術的には、美容師が感覚値でやっていることをそのままシステムに組み込むことも可能だ。しかし、紙の予約台帳しかない中で編み出されたそのやり方が最も効率的かというと、必ずしもそうではない。システムを知り、他の美容院やWebサービスも研究する長尾さんなら、本人たちが気付かない解決策を提案できる可能性は高い。
「美容師の皆さんは、自分の腕で人々を幸せにするプロです。心から尊敬しています。そんな方々が集客や売上管理に忙殺され、耐えきれずに辞めてしまうのを防ぎたい。プロがプロの仕事に専念し、生き生きと働けるよう、システムのプロとしてサポートしていきたいです」
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