美容師の働き方はなぜブラックなままなのか──土日休みにこだわる人気店が、業界に問う課題:3年で5割以上が辞める(3/5 ページ)
土日は休めなくて当然、働き方はブラックで当たり前──そんな美容業界の在り方に警鐘を鳴らすのは、日曜定休の人気美容院を経営する海野貴裕さんだ。海野さんに、これまでのキャリアで培ってきた働き方への考え方や、顧客との向き合い方を聞いた。
ドン・キホーテで学んだ真の接客
海野さんは、専門学校を卒業後10年間美容師として働き、30歳のとき転職を決意した。安い・長い・ツラいの三拍子そろった職場環境に、心も体も金銭面も限界だった。美容師に戻るつもりはなかった。
転職先は、総合ディスカウントストアのドン・キホーテだった。ここでの経験が海野さんを変えた。美容師業界で凝り固まった考え方が全て崩された気がしたという。
「美容師は接客のプロだと思っていました。でも、世間はもっと広かった。僕の上司は、初期不良や故障品の相談にいらっしゃるお客さんに対して、『すぐに交換します』といえる人だったんです。『お客さんを待たせるくらいなら販売証明なんて後で探せばいい、もしなかったら、それはそれでお客さんが時間を使わなくて済むならいいじゃないか』と。お客さんの気持ちになれるって、かっこいいなと思ったんです。売り場を作るときも、お客さん目線でした。
当たり前のことだと思われるかもしれませんが、そこに美容師時代には気付かなかった接客の全てを見た気がしました。昔の僕は、お客さんにカラーのやり直しをお願いされたら嫌な顔をしていたと思います。10年美容師をやってきて、ちょっと腐ってきていた部分があったんですよ」
ドン・キホーテで働いた2年半、家電売り場の責任者を任され、中目黒の本店に栄転もさせてもらった。ビジネスレベルのPCスキルも身についた。周囲は一生懸命で、アルバイトもみんな夢を口にしていた。海野さんは、そういう人たちと働くことで心が洗われていくのを感じていたという。
同時に、街なかで夜中まで明るい美容院が目に入ると「あそこにいたんだけどな」と思うようになった。そんなとき、独立する美容師仲間から一緒にやらないかと誘われた。
大きな美容院で働くのはトラウマになっていたが、小さな店ならまた挑戦できるような気がした。「ドン・キホーテは初めて『職場が嫌になった』という理由じゃなく、辞めました」と海野さんは話す。
洗脳に近い美容師業界の既成概念を覆す
海野さんの目標は、時代遅れの慣習にまみれた美容師業界を覆すことだ。
「この業界だけで長く働いていると、試用期間は3〜4年が当たり前、夜遅くまで残って練習するのが当たり前、土日は休めなくて当たり前といった既成概念に支配されていきます。洗脳に近いです」
関連記事
- 「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」 両者を分ける“4つのスキル”とは?
日本企業はなぜ、「部下を育てられない管理職」を生み出してしまうのか。「部下を育てられない管理職」と「プロの管理職」を分ける“4つのスキル”とは? 転職市場で求められる優秀な管理職の特徴について解説する。 - 崩壊寸前だったVoicy 離職率67%→9%に立て直した人事責任者が語る“人事の本質”
日本の音声コンテンツ市場の先頭を走る、音声メディア「Voicy」。3カ月で利用者数が2.5倍になるなど、コロナ禍で驚異的に成長している。しかし、たった1年半前は離職率が67%にのぼり、組織崩壊寸前だったという。そんな中でVoicyに入社し、抜本的な人事改革を行ったという勝村氏。一体どのような改革を行ったのか──? - 「指示待ち」「官僚的」な社風が一変 湖池屋の好業績の陰に“人事改革”あり その中身は?
湖池屋の業績が伸びている。もとは「指示待ち」「官僚的」だった社風を改革したことが、要因の1つのようだ。組織の文化や風土の変革など、湖池屋を変えた人事改革に迫った。 - 日本に「雑務ばかりの職場」がはびこる背景にあるもの
なぜ、職場から「雑務」がなくならないのか? 350以上の企業や自治体、官公庁などでの組織や業務の改革支援を行ってきた沢渡あまね氏が、「雑務ばかりの職場」を生む背景を8つに分けて考察し、その解決策を紹介する。 - 3つの“あるある” 「礼儀という名の雑務」に時間を取られていませんか?
日本の組織には、ビジネスマナーや礼儀という名の雑務が多い。本記事では、実際のビジネスシーンでよくある雑務を挙げながら、どうしたら不要な雑務をなくし、スマートに働けるのかを考える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.