鉄道業界に必要なのは「ラガード戦略」 JR東海の「きっぷうりば」が優れているワケ:万人に開かれた公共交通のために(5/5 ページ)
日本の鉄道事業者はイノベーションを起こそうと、常に新しいことに挑戦している。一方で万人受けかというと、疑問に思うサービスも多い。「イノベーター理論」で考えると、「ラガード」「レイトマジョリティ」層は戸惑ってしまうのではないだろうか。
どんな層でも対人サービスを欠かさない鉄道も
秩父鉄道や流鉄のように、いまだに多くの駅に駅員がおり、乗客に対応している鉄道会社もある。秩父鉄道では、駅員がいる曜日と時間を明示し、窓口対応が必要な利用者に対してはその時間に来てもらうように呼びかけている。
ただ、これらの鉄道は小規模事業者であり、いまだに交通系ICカードなどのシステムに対応できない現状もある。秩父鉄道については、交通系ICカードを導入する計画を立てている。
一方、それなりに大きな鉄道会社で対人サービスを極力減らさない方針を取っている鉄道会社もある。JR東海だ。
JR東海は、東海道新幹線の会社として知られていて、「エクスプレス予約」などのサービスが多くの「アーリーマジョリティ」層にまで浸透しているが、一方で駅窓口などを大切にする会社である。
多くの有人駅に「JR全線きっぷうりば」があり、特に静岡エリアの東海道本線ではたくさんの駅に備わっている。特急列車が来ない路線の駅にも「JR全線きっぷうりば」がある。このように、どんな層にもしっかりと対応しているのがJR東海の強みである。
東京駅にもいまだに大きな有人窓口があり、そこで新幹線のきっぷを販売している。筆者はその前を通ることがあるが、いつも人が並んでいる。まだまだ対人サービスを必要とする層は多いのだ。
もちろん、有人サービスのほうが手間もお金もかかる。ただ、サービスをネット化、省人化する際に、それについていける人だけではなく、ついていけない人も大切にできるかどうかが、鉄道としては重要である。
鉄道会社には優秀な人がたくさん働いているが、そうした人たちの目線でサービスやシステムを考えてしまうことがある。企業戦略として「イノベーションを起こす」といった考え方は間違っていないが、果たしてそれは一般の人でも利用できるのかどうか。そうでなければ、「ラガード」「レイトマジョリティ」層は戸惑ってしまう。そこにこそ、各社の“心づかい”が必要だ。
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