業績が苦しくても、ボーナスを絶対に支給すべき理由 どうやって実現?:Q&A 総務・人事の相談所(2/2 ページ)
「コロナの影響で売り上げが落ち込んでいて、次回賞与の支給を見送ろうと考えていますが、問題ないでしょうか」──この質問に、筆者は「法律的には問題はありませんが、経済的には問題があります」といいます。どういうことでしょうか?
会社業績と賞与原資を連動させる方法
会社業績に連動して賞与原資を決める方法として、代表的なものに「スキャンロン・プラン」があります。「売上高×標準人件費比率−月例人件費」の額を賞与原資とする方法です。前出の米国企業ゲイン・シェアリングの原資を決める方法です。スキャンロンは考案者の名前です。
表1はスキャンロン・プランの数値例です。このようにして会社の業績、しかも売上高という最も分かりやすい指標と賞与原資を連動させる仕組みを明確にしておけば、社員は賞与が減ることも甘受するはずです。
最低支給ラインを決めておく
ただし、いくら業績連動とはいえ賞与制度が給与規定にあり、賞与を何カ月分か支給することを暗黙の前提にして人を採用してきた会社が、これをゼロにして経営を続けていくことは、損失回避や効率性賃金の観点から考えて非現実的です。
そこで「業績連動の仕組みにかかわらず、最低でも○○カ月分の賞与は支給する」というラインを決めておきます。そして、最低ラインの賞与が支給できない状態が恒常化したときは、人員を減らすこともやむを得ません。
会社と社員の間には「心理的契約」というものがあります。会社側から見れば「明文化されてはいないが、これくらい払えばこれくらいの仕事はしてくれるだろう」という期待、社員側から見れば「このくらいの仕事をすれば、このくらいの賃金は払ってくれるだろう」という期待です。会社にとって、一定額の賞与を支給することは心理的契約です。必ずしも支給するわけでない旨の給与規定があるからといって、支給しなくても良いようなものではありません。
人員削減というと穏やかでないかもしれませんが、支給すべきものが支給できなくなったら、人員を削減せざるを得ないのは自明です。賞与支給を前提にした賃金制度をとっている会社にとって、一定額の賞与は必要経費です。それに人員削減の方法は整理解雇とは限りません。採用凍結による自然減や希望退職募集もあります。
参考文献
- 清家 篤, 風神 佐知子(2020)『労働経済』 東洋経済新報社
- ノルベルト・ヘーリング , オラフ・シュトルベック (2012)『人はお金だけでは動かない―経済学で学ぶビジネスと人生』
- 山根 承子, 黒川 博文, 佐々木 周作, 高阪 勇毅(2019)『今日から使える行動経済学』
著者紹介:神田靖美
人事評価専門のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表取締役。企業に対してパフォーマンスマネジメントやインセンティブなど、さまざまな評価手法の導入と運用をサポート。執筆活動も精力的に展開し、著書に『スリーステップ式だから、成果主義賃金を正しく導入する本』(あさ出版)、『会社の法務・総務・人事のしごと事典』(共著、日本実業出版社)、『賃金事典』(共著、労働調査会)など。Webマガジンや新聞、雑誌に出稿多数。上智大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。MBA、日本賃金学会会員、埼玉県職業能力開発協会講師。1961年生まれ。趣味は東南アジア旅行。ホテルも予約せず、ボストンバッグ一つ提げてふらっと出掛ける。
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