「東急ハンズ」はなぜ追い詰められたのか コロナ前からの“伏線”と、渋谷文化の衰退:長浜淳之介のトレンドアンテナ(3/6 ページ)
東急ハンズ売却のニュースは大いに話題になった。追い詰められた背景には何があるのか。コロナ前からの“伏線”に迫る。
衰退した渋谷文化
1980年代から2000年代、渋谷文化は日本に大きな影響を与えていた。しかし、2010年8月にHMV渋谷店が閉店したあたりから、“衰退”が顕在化していた(HMVは15年11月渋谷モディに復活)。HMV渋谷店の跡に入ったフォーエバー21渋谷店も、同ブランドの日本撤退で19年10月に閉店。16年8月には、カラオケのシダックス旗艦店、渋谷シダックスビレッジクラブが閉店している。
20年11月には、SHIBUYA109の主力ブランドに長らく君臨した、セシルマクビーの全店が閉店。同年5月に、ライブハウスのVUENOS、21年5月にはミニシアターのアップリンク渋谷が閉店した。
そして、渋谷シダックスの跡に入ったのが、ニトリ(2017年6月オープン)。フォーエバー21渋谷店の跡に入ったのが、イケア(20年11月オープン)。どちらも郊外のロードサイドに強い家具店であるが、雑貨に力を入れており、東急ハンズの競合店の1つ。これら、雑貨強化型の郊外型家具店が、渋谷に相次いで進出したのも、今回のカインズによる東急ハンズ買収の地ならしになったと思われる。
コロナ禍の直前には、渋谷の再開発がほぼ完了。渋谷スクランブルスクエア、渋谷ストリーム、渋谷ソラスタ、渋谷フクラス(新生東急プラザ渋谷)、新生渋谷パルコなどが一斉にオープンした。2000年頃にビットバレーと呼ばれた、ベンチャーの街・渋谷を取り戻すのがまちづくりの大きなテーマとなっており、主にIT産業が入居するオフィスビルが多い。商業施設も新生渋谷パルコではアニメやゲーム、飲食の横丁などの要素が多く取り入れられていて、ファッションからカルチャーへと軸足が移っている。
そうした流れから、東急ハンズには本来、追い風が吹いているはずだ。しかし、それら新築のビルを見てから渋谷店を訪れると、天井は低く、壁面の老朽化が目立ち、商品に到達する前に購入意欲を削がれてしまう。高低差のある難しい地形を逆手に取った、各階の中間階をつくっていく独特なフロアの設計も、商品数が狭いスペース内に押し込められているように映るのだ。特に園芸とペット用品の売り場は物足りない。
去り行くかつての渋谷を引きずったまま、ズルズルと来てしまった感がある。
本来、渋谷店はパルコや東急プラザのように、全店閉館して平成版にリノベーションするか、建て替えるべきだった。
しかし、東急不動産HDはそこまで踏み切れず、勢いのある郊外型ホームセンターのカインズに再生を委ねた。
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