「東急ハンズ」はなぜ追い詰められたのか コロナ前からの“伏線”と、渋谷文化の衰退:長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/6 ページ)
東急ハンズ売却のニュースは大いに話題になった。追い詰められた背景には何があるのか。コロナ前からの“伏線”に迫る。
東急ハンズのコンセプト
東急ハンズの歴史を振り返ってみよう。
元東急ハンズのバイヤー、和田けんじ氏が著した『“元祖”ロングテール 東急ハンズの秘密』(2009年、日経BP社刊)によれば、東急ハンズの歴史は1972年に東急不動産が現在の渋谷店が建つ土地を取得したことに始まる。当時の渋谷は、67年の東急百貨店本店オープン以来、西武百貨店渋谷店、東急プラザ、パルコと新しい商業施設が続々と開店。しかし、宇田川町周辺は、渋谷と代々木公園を結ぶ通り道で何もなかった。
73年にオイルショックが起こり、金融引き締めにより東急不動産は土地・建物を他企業に貸すのを諦め、自社で活用することを考えた。協議の末、物販の店に決まった。不動産会社らしく住宅関連の小売店にすることにした。
担当者は米国のホームセンターを視察し、自分の手で作る「DIY(ドゥ・イット・ユアセルフ)」と生活を改善する「HI(ホーム・インプルーブメント)」の考え方を採用。日曜大工の道具や材料、生活雑貨、手芸用品、ホビー用品、インテリア関連用品などが商品リストに加えられた。日本でも登場しつつあったDIYショップと差別化するため、一般向けだけでなくプロ向けの商品までそろえることにした。
コンセプトは、「手の復権」。手の延長である道具を使って、新しい生活を創造することに決まった。専門的な商品を販売するため、使い方を丁寧に説明するコンサルティング販売を重視した。
売れ筋のみを並べない、豊富な品ぞろえが特徴。何に使うのか分からないようなものまで販売し、ニッチな需要を徹底的に拾いまくることが、本来の東急ハンズの姿。今日のアマゾン・ドット・コムのような巨大通販サイト、ダイソーやセリアなどの100円ショップは、この「ロングテール」と呼ばれるビジネスモデルを採用していて、東急ハンズの競合となっている。
全く新しいタイプの店をオープンすると説明しても卸商に通じないので、仕入先は職業別電話帳をめくってコツコツと開拓。店員は、新聞広告を見て応募してきた、元大工や元機械工を訓練した。
そうして、小売の素人である不動産業者が苦難の末、東急ハンズを立ち上げた。徹底した消費者目線が圧倒的に支持され、渋谷の名所となった。
なお、78年に渋谷店がオープンする前、76年に神奈川県藤沢市、77年に東京都世田谷区にそれぞれ出店している(いずれも既に閉店)。これらは、プロトタイプの実験店と考えて良いだろう。
現在の店舗数は、東急ハンズ63店(FC9店、海外15店を含む)、小型店のハンズビー20店(FC2店を含む)、計83店だ(2021年11月1日現在)。
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