経営も分かる「CFO候補」が理解しておくべき、経営の“本質”とは?:伊藤レポートの「ROE8%以上」だけでは足りない(2/2 ページ)
財務・経理と並ぶファイナンス人材のキャリア「FP&A」。経営者のビジネスパートナーとして、経営判断に影響を与える良質な判断材料を提供します。この役割を果たすためには、しっかりとした判断軸が必要です。「FP&Aの判断軸」とは一体どのようなものなのでしょうか。
FP&Aの判断軸
ROEは伝統的な経営指標であり、日本においても大分普及してきたように感じます。確かに分かりやすい指標なのですが、簿価ベースでの株主資本のみをベースに考えるため、有利子負債も含めた事業全体の収益性を捉えられないというデメリットもあります。
また、自己株式取得などで簿価ベースでの株主資本が下がることで、大きくROEが上昇するなど、テクニカルなやり方で改善をすることも可能です。
そこで近年はよりビジネスの実態を測定すべく、事業資産を元手にどのくらいのリターンを生んでいるのかというROIC(投下資本利益率)という指標が用いられるようになってきました。またROICは効率性、すなわち率(%)の指標になりますが、効果性、すなわち額で資金提供者への価値還元を考えるフレームワークとしてEVA(経済的付加価値)も経営KGIとして重要視する企業も増えてきています。下記がEVAおよびROICの概念を簡単に説明したものになります。
ROICは、事業を運営するために必要な事業資産(メーカーを例にとれば、機械や工場といった固定資産と、売掛金・買掛金・棚卸資産といった運転資金の合算値)を元手に、どのくらいの事業活動からのリターンを得ることができるか、を表したものです。事業活動からのリターンは税引き後営業利益(NOPAT:Net Operating Profit After Tax)で表すことが一般的です。事業資産は外部からの資金調達で賄うものと仮定するため、事業資産の価値は、有利子負債額と株主資本額の合計値とも考えられます。
このROICが先ほどの図で言う「左側」に該当し、それが資金提供者の期待利回りを上回るかどうかが判断軸となります。資金提供者の期待利回りは、WACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)、すなわち株主の期待利回りと債権者の期待利回りを、その時価ベースでの株主資本・有利子負債のウエイトによって加重平均して計算されるのが一般的です。リスクの度合いによっては、リスクプレミアム分が加算されるケースもあります。今回は記事の趣旨から逸れるためWACCについての説明は省きますが、自分たちが乗り越えるべきハードルを正確に理解するという意味でも、財務担当者は自社のWACCや加算されるリスクプレミアムを確認しておくことをお勧めします。
一方EVAはどのように考えたらいいでしょうか。これも概念としては先ほどの図を念頭に置いて考えると分かりやすいです。
EVAは「左側」で上げたリターン(NOPATを用いる)から、「右側」の資金提供者に約束したリターン(すなわち資本コスト=事業資産に期待利回りを乗じて算出する)を還元しても余りがあるかどうかを示した指標となります。EVAがプラスということは、資金提供者に約束したリターンを還元してもまだ余りがある状態であり、期待以上のリターンをビジネスで生んでいることを意味します。
このようにEVAやROICという指標を用いると、「株主債権者に対してのコミットメントを上回るような意思決定なのか」という定量的な判断が可能になります。
FP&Aは定量的側面から意思決定を支える
損益計算書(PL:Profit & Loss Statement)の売り上げや利益だけ見ても適切な経営判断はできません。資金提供者から資金を預かっている以上、その期待リターンを還元できるかどうかで経営判断をすることが説明責任を果たすうえで非常に大切にです。
そのための指標として今回はROICやEVAをご紹介しました。これら2つの指標以外にも、複数年にわたって継続するプロジェクトの投資においてはNPV(Net Present Value:正味現在価値)やIRR(Internal Rate of Return:内部収益率)といった指標を用いた経営判断をすることも一般的ですが、この考え方も先ほどに記載した図で説明したように、「右側」が期待するリターン以上の経済性を「左側」で生んでいるのか、を表したものです。
いずれにしても定性的な材料だけで経営判断するのは不十分で、短期的にも中長期的にも、その判断が資金提供者にとって納得性の高いものなのかどうかを定量的に見ることが求められており、まさにFP&Aが意思決定に大きく貢献する領域であることがお分かりいただけると思います。
著者プロフィール
鷲巣大輔
グロービス経営大学院准教授/株式会社FP&A研究所代表取締役
一橋大学商学部卒業。米系消費財メーカーに入社後、コーポレートファイナンスからキャリアをスタートする。以後一貫してFP&A(Financial Planning & Analysis)をベースとした経営戦略策定、事業部コントロールに従事。スタートアップ企業CFO、米系消費財企業のアジア・パシフィック地区のCFOを務めた後、PEファンド投資先企業のFP&A、経営企画を担当。2021年にFP&Aの力で組織を強くすることをミッションに株式会社FP&A研究所を創立し、代表取締役を務める。2007年からグロービス経営大学院にて、コーポレートファイナンスの講義を担当する。
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