AIオンデマンド乗合タクシーの成功の秘訣 全国30地域に展開する「チョイソコ」の事例から:前編(6/6 ページ)
全国30地域で運行しているAIオンデマンド乗合タクシー「チョイソコ」。スポンサーとなった地域の医療機関や薬局、スーパーなどが停留所を設ける仕組みで、収益率を向上させている。このほかに、大きな特徴が2つあるという。
人件費がかかるコールセンターのオペレーターを営業に生かし
売上の向上につなげる
坊 チョイソコでは、コールセンターのオペレーターさんの存在も大きいと思います。他の地域でも、オンデマンド乗合タクシーの実証実験で、アプリだけで予約受付をしているところがありますが、アプリしかないと、高齢者はなかなか使わないので、利用者が増えない。逆に、電話予約の仕組みにすると、高齢者は使いやすいけど人件費がかかる。
チョイソコの場合は、オペレーターさんを入れて電話予約の仕組みを設けて、人件費がかかるけど、その分、オペレーターさんが利用者から聞いた話を営業に伝えるなど、マーケティングに生かしていらっしゃる(写真1)。オペレーターさんの存在を生かす工夫やメリットについてどのようにお考えでしょうか。
加藤氏 アイシンのイノベーションセンターやビジネスプロモーション部は、実際に商品やサービスが使われることを前提に、現実的に仕組みを考える部署です。心掛けているのは、作った人の価値観を押し付けないということです。
豊明市のおかげで、チョイソコの計画段階で、高齢者が集まる公民館や憩いの家などで、何度もヒアリングの場を設けさせて頂きました。その時に「スマホ持ってますか」「スマホでサービスを予約したり、モノを買ったりしたことありますか」と聞いた。スマホを持っていた人は32%いましたが、スマホで予約したことがある人はわずか3%でした。4年前の数字ですよ。東京でヒアリングをしたら、また数字も違ってくると思いますが。
それを聞いた人は、すぐに「スマホを配ったら」なんて言うんですが、要らないから持ってないんですよ。だったら、最多の97%の人達を狙うには、電話オペレーターという選択肢しかなかったんです。今でもチョイソコの予約は、スマホやメ―ルでもできますが、99%が電話予約です(※4)。
電話予約制にしたことによって、副次的効果がありました。オフィスで、コールセンターの島は、ビジネスプロモーション部の私の机のすぐ近くに配置してあり、隣には営業担当の机の島があります。オペレーターとお客さんとの会話は、営業の社員たちによく聞こえるので、すぐに話が伝わります。お客さんに怒られていたら丸聞こえだし、例えば「停留所がないけど、この施設に行きたい」というような要望もすぐに伝わるので、営業活動に生かすことができます。オペレーターは現在8人いて、全国から予約を受け付けています。導入件数が増えたので、間もなく2人追加予定です。
オペレーターは、1人につき机を二つ持っています。電話受付をする時は、全員外側の机に向かっていて、専用端末で作業をする。振り返ると内側の机には自分のパソコンがあるので、予約受付が少ない時間帯は、会員証の登録業務をやったり、協賛会社からの入金管理をしたりしています。さらに今年10月から実証実験を始めたのが「ちょいトーク」という電話による見守りサービスです。高齢者に週1回電話をかけて、あらかじめ決めておいたテーマについて話をするのです。例えば先週のテーマは「最近お出かけしたところ」だったので、「今週のちょいトークです、最近お出かけしてますか」と。お客さんから「忙しいから今日はいいよ」といわれることもありますが、それでも一応、安否確認はできます。希望があれば、遠方に住んでいる息子さんや娘さんに、テキストでちょいトークの結果を送信しています。今は実証実験段階なので、お金は取っていません。
(※4)スクールバスを除く。
坊 コールセンターは、アイシンで直接運営している他、各地域の企業にも一部委託しているそうですが、どのような状況ですか。
加藤氏 各地のトヨタ販売店様にシステムを導入したり、提携先の企業や地元のバス会社様と協業していることもあります。
コールセンターを委託する理由は、各地域でチョイソコの実施主体になって頂く企業さんの収益向上です。オペレーター代は、各自治体さんから経費を頂いているので、チョイソコの仕組みの中で、一定の収入を得られる業務です。導入地域が3カ所あれば、3つの自治体さんからオペレーター代をもらえるので、実施主体の企業さんが、事業として成立させやすくなるからです。
(中編に続く)
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