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男子モーグル「銅」の堀島選手支えた国産ブーツ “平昌の悲劇”から4年、逆襲の開発劇(1/2 ページ)

北京五輪で日本勢第1号のメダルとなる銅メダルを獲得した、フリースタイルスキー男子モーグルの堀島行真選手。メダル獲得を足元で支えたのが、日本企業が開発した国産スキーブーツだ。11位に終わった“平昌の悲劇”から4年。スキーブーツの開発秘話を担当者に聞いた。

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 日本人選手の活躍が続く北京五輪で、日本勢第1号のメダルとなる銅メダルを獲得した、フリースタイルスキー男子モーグルの堀島行真選手。メダル獲得を足元で支えたのが、日本企業が開発した国産スキーブーツだ。メダル候補と目されるも11位に終わった“平昌の悲劇”から4年。堀島選手と二人三脚で手掛けたスキーブーツの開発秘話を担当者に聞いた。

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日本勢第1号のメダルとなる銅メダルを獲得した堀島行真選手(右、出典:北京五輪公式Twitterアカウント

短期連載「沸騰!北京五輪」

コロナ禍での開催となった北京五輪。北京は2008年にも夏季五輪を開催しており、夏冬の五輪を開催した史上初の都市となる。前回の北京五輪から約14年が経過し、各企業を取り巻く環境も大きく変化している。冬のビッグイベントに出場選手や企業、政府などはどう関わっているのか。動向を追う。

電子部品メーカーが手掛ける国産スキーブーツ

 「予選での苦戦を見て4年前の悪夢が脳裏をよぎったが、最後は『行真頑張れ!」の一心だった」――こう振り返るのはレクザム(大阪市)の渡辺剛一さん。堀島選手が五輪本番で使用したスキーブーツの開発を手掛けた。

 今シーズンのW杯で3勝を挙げ、男子モーグルのエースとして金メダルが確実視される中で臨んだ北京五輪では、予選1回目で決勝進出を決めることができなかった。苦戦する中でも銅メダルを獲得したことについて渡辺さんは「流石の実力だ」と賞賛した。

 レクザムは1960年創業の機械部品メーカー。同社の公式Webサイトによると、従業員数は1280人、売上高はグループ全体で487億円(20年12月期)を誇る。主力事業は電子部品で、売り上げの9割近くを生み出している。主要な取引先はダイキン工業だという。

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堀島選手のスキーブーツを開発したレクザム(同社提供)

 そんな同社は1992年、「世界で勝てる国産ブーツ」を目指し、同社の現社長である岡野晋滋さんを初代事業部長として、15人の技術者とともにスポーツ事業部を立ち上げ、翌93年にスキー業界に参入。上村愛子選手など日本のトップ選手御用達のブーツブランドとして成長してきた。06年トリノ五輪のアルペン複合と回転の2種目で銅メダルを獲得した、ライナー・シェンフェルダー選手(オーストリア)の愛用ブランドとしても知られる。

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トリノ五輪で銅メダルを獲得したシェンフェルダー選手(出典:同社公式Webサイト)

 レクザム製ブーツの大きな特長が、人間工学に基づいた構造だ。モーグルなどのスキー競技はスキー板の左右に激しくひねるという競技特性があり、従来のブーツは着用時に膝が内側に向くようになっていた。

 前傾姿勢が多いモーグルでは、膝が内側に曲がるとパワーロスにつながることから、同社は独自構造「A-ONE CONCEPT」を開発。ブーツを履くと自然に膝が真っ直ぐになるよう設計することで、膝が雪面からの抗力を正面から受け止められるようになり、スキーを長時間しても脚への負担を軽減できるという。

レクザムが開発した独自構造「A-ONE CONCEPT」(出典:同社公式Webサイト

 従来のスキーブーツの構造にはトップ選手も悩んでいたようだ。上村選手もその一人で、酷い外反母趾に悩んでいた。その悩みを聞きつけた社員が01年、上村選手の遠征先であるカナダにレクザム製ブーツを持ち込み、試してもらったことをきっかけに、愛用者の一人に。ソルトレークシティー五輪(02年)からソチ五輪(14年)までの4大会で、上村選手のパフォーマンスを足元から支えた。

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レクザム製ブーツを愛用した上村愛子選手(左、出典:同社公式Webサイト)

 五輪銅メダリストのシェンフェルダー選手や、W杯年間王者に輝いた上村選手が愛用したブランドということもあり、海外メーカーがひしめく業界内でも一目置かれる存在になったレクザム。特に日本国内での上村選手の影響力は大きく、愛用する選手も徐々に増加した。上村選手に憧れた堀島選手もその一人で、当時高校3年生だった16年、同社製ブーツを着用してW杯3位となり、同シーズンの「ルーキー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。

 大学入学後の17年には、初出場の世界選手権で2冠を獲得。日本男子モーグル初の快挙を達成し、翌18年の平昌五輪の金メダル候補として一躍世界から注目されるようになった。

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