男子モーグル「銅」の堀島選手支えた国産ブーツ “平昌の悲劇”から4年、逆襲の開発劇(2/2 ページ)
北京五輪で日本勢第1号のメダルとなる銅メダルを獲得した、フリースタイルスキー男子モーグルの堀島行真選手。メダル獲得を足元で支えたのが、日本企業が開発した国産スキーブーツだ。11位に終わった“平昌の悲劇”から4年。スキーブーツの開発秘話を担当者に聞いた。
平昌五輪でまさかの11位 二人三脚で歩んだ4年間
金メダル候補として挑んだ初出場の平昌五輪。原大智選手が五輪のモーグルで日本男子初の銅メダルを獲得した一方で、堀島選手は決勝で転倒。まさかの11位に終わり、失意の中、大会を去ることになった。
平昌五輪後、すぐに着手したのが用具の見直しだったという。「五輪にもう1度再挑戦したい」。堀島選手自身からそうした意向を聞いた渡辺さんも、モーグルに特化した専用ブーツの開発に着手した。
モーグルは凸凹の雪面を滑降し、技の難易度やスピードを競う競技。重力の関係上、前傾になればなるほど滑降スピードは増す。開発で重視したのは前傾しやすい構造だ。渡辺さんが欧米の有名選手のフォームを研究したところ、日本人選手と海外の選手は筋肉の場所など足の構造が異なると判明。日本人が海外選手と勝負するには足の可動域を広げる必要があるとの結論に至った。
“逆転の発想”が生んだ新モデル ポイントは可動域
可動域を広げるためにまず行ったことが、ブーツ内部にV字の切り込みを入れることだった。ブーツに使用するボルトの一部も外し、可動域をさらに広げた。業界内では足をがっちり固定し、保護する考えが主流だったため、まさに“逆転の発想”だった。ブーツ底を3分割し、ジャンプ着地時など競技中の衝撃を軽減するなどの工夫も施した。
「業界内でも固定するのが常識だった。逆にこんなに動かしていいのかと思った」(渡辺さん)
3D計測器なども活用しながら、日本人の足に合うよう設計し、約1年間かけて、北京五輪で使用したモデルのベースが18年末に完成。堀島選手のシーズンオフなどを利用し、テストとフィードバックを繰り返し、最終調整を行い、完成に至った。「R-EVO CONCEPT」と命名されたブーツを着用した堀島選手は、そのシーズン、W杯で活躍し、世界ランクは2位まで上昇した。
その後も軽量化や気候に左右されにくいブーツを目指した。「怪我しないよう足を保護しつつも、固定しすぎず、動けるブーツがモーグルには求められる。そのバランスが難しいところ」と渡辺さん。使用部品の素材にも毎年改良を重ね、最終的に300グラム程度の軽量化に成功した。
「今後はリーズナブルな価格帯の製品も充実させたい」
選手にトリノ五輪以来のメダルをもたらしたレクザム製ブーツ。今後は一般ユーザーでも購入しやすい価格帯の製品を拡充することが求められる。堀島選手が着用したモデルは一般向けにも販売している一方、これまでトップ選手向けの開発を手掛けてきたため、同社が手掛ける製品の多くが6万円から8万円前後で、スキー用品では高価格帯という位置づけだ。
渡辺さんも「一番売れるのが5万〜6万円の価格帯。それに比べるとうちの製品は結構高い」と課題意識を持っているという。スキーをするには、ブーツだけでなく、板やウェアも必要なため、用具一式を揃えるにはかなりの費用がかかる。
スキーを楽しめる季節も限られ、遠方までの移動が必要になることに加え、近年は少子化が進んでいる。都市部への人口集中による地方の過疎化が進み、日本国内でのスキーの競技人口も減少傾向にある。
渡辺さんは「リーズナブルな価格帯の製品を充実させることで、より広い層のスキーヤーに好まれるような製品を作りたい。それが業界維持につながる」とし「子どもからお年寄りまで安心安全に楽しめるのがスキー。エンジンなしでスピードが出る爽快感を感じてほしいというのが個人の思いだ」とスキーの魅力をアピールした。
銅メダルを獲得した堀島選手に対しては「予選での苦戦を経て、決勝でチャレンジしたからこそ銅メダルを獲得できたと思う。平昌五輪からの4年間で本当に成長した。おめでとうと伝えたい」とエールを送るとともに「自分たちも堀島選手に負けないよう、チャレンジを続けていきたい」と意気込んだ。
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