北京五輪選手村で実証実験中の「デジタル人民元」 中国の狙いとは?:元日銀局長が解説(4/4 ページ)
中国政府が国内で実証実験を進めている「デジタル人民元」。中央銀行が発行するデジタル通貨で、北京五輪の選手村でも実験中だ。デジタル人民元を推進する中国の3つの狙いとは?元日銀局長に聞いた。
デジタル人民元、中国国内では穏やかに浸透か
国内主要都市を中心にデジタル人民元の実証実験を進めている中国。アリペイとウィーチャットペイが国内で既に独占的なポジションを確立しており、導入してもユーザーが2サービスからシフトするだけなので「中国からするとあまり本質的な実験とは言えないかもしれない」と山岡さん。だが、五輪選手村に限っては、スポンサー契約の関係上、中国国内で2サービスを除いた形で実験できるメリットがある。
コロナ禍で海外からの入国が大会関係者や報道関係者に限定されたため、中国が当初見込んでいたほどの宣伝効果は期待できないだろうが、一部の層には宣伝できるため、実験自体にも一定の意義があると言えるだろう。
五輪後の動きについて山岡さんは「中国は1次産品の輸入相手国など資源国との関係を強化している。親密国を中心に人民元へのシフトの働きかけを強化するだろう」としている。国内ではアリペイなどが主流であることから「現状を無理やり変えるのは難しい。国内では穏やかな方針を図り、徐々に浸透を図るだろう」とみている。
決済インフラ整備が今後の課題に
デジタル通貨を含めた人民元そのものを国際的に普及させるには、貿易相手国でもデジタル人民元を使えるよう決済インフラを整備することが今後の課題となる。中国は15年、人民元建ての決済を促す金融インフラ「クロスボーダー人民元決済システム」(Cross-Border Interbank Payment System、CIPS)をリリース。国際貿易における人民元取引の増加に向けたインフラ整備に意欲的だ。
「当然のことながら人民元を受け取った側が人民元を使えるようなインフラ整備が重要。中国にとっては5G基地局に代表されるように、相手国が望むような輸出品目を充実させることも同時に求められる。中国系のものが循環する経済のエコシステム構築が習近平政権の狙いだろう」(山岡さん)
後編では、デジタル人民元が欧米諸国に与える影響や、日本が執るべき方策などを解説してもらう。
話し手:山岡浩巳(やまおか・ ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長、デジタル通貨フォーラム座長、米ニューヨーク州弁護士
1986年東京大学法学部卒業。同年4月、日本銀行に入行。90年米カリフォルニア大学バークレー校ロースクール修了(LL.M)。日銀ではパリ事務所勤務、景気分析グループ長、参事役・大手銀行担当総括など政策分野に広く携わる。在職中はバーゼル銀行監督委員会委員、国際決済銀行(BIS)市場委員会委員、同決済・市場インフラ委員会委員、IMF日本理事代理など国際機関の要職を歴任。13年に日銀の金融市場局長、15年からは決済機構局長を務めた。19年、フューチャーに顧問として入社し、現職。
著書に「金融の未来―ポスト・フィンテックと『金融5.0』」(KINZAIバリュー叢書)、「デジタル化する世界と金融―北欧のIT政策とポストコロナの日本への教訓」(きんざい、共著)がある。
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