なぜ「時速5キロの乗り物」をつくったのか 動かしてみて、分かってきたこと:「実証実験」の結果(2/4 ページ)
時速5キロで走行する乗り物「iino(イイノ)」をご存じだろうか。関西電力100%子会社の「ゲキダンイイノ」が開発したところ、全国各地を「のろのろ」と動いているのだ。2月、神戸市の三宮で実証実験を行ったところ、どんなことが分かってきたのだろうか。
ゴミ収集車に着目
時計の針を18年に戻す。関西電力で働いていたメンバーは、業務外に「なにか新しいことはできないかな?」と探っていた。「時速5キロの乗り物」ありきではなく、着想を得たのはゴミ収集車である。作業員が収集車の後ろにピョンと乗り込む姿を見て、同社の財津和也さん(エンジニア・クリエイティブ担当)はこんなモビリティはどうかと考えた。「好きなところで乗って、好きなところで降りる」――。
バスでもなく、タクシーでもなく、考え方としては「動く歩道」に近い。目的地の方向と同じなので、動く歩道に乗るといった感覚である。発想はユニークである。ただ、当時のメンバーの中にモビリティづくりに携わった人間はいなかった。関西電力で働く財津さんもIT畑で、門外漢である。ド素人だからあきらめるのではなく、ド素人だからこその強味を生かしたのだ。それは、常識にとらわれないアイデアと行動力である。
メンバーが着目したのは、ターレットだ。動力部が円筒になっていて、360度回転するアレである。市場などで荷物を運ぶために、キビキビと動いている姿を見たことがある人も多いだろう。ターレットの構造をベースに、荷台のところに人が乗れるようにしたり、寝転ぶことができるようにしたり、最大5人まで乗車できるようにしたり。さまざまなことに取り組んでいる中で、筆者が気になったのは2月に実施した「実証実験」(2月2〜11日)である。
神戸市の三宮を舞台に「ウォーカブルシティ」を見据えて、「iino」に注目が集まっていたのだ。「なんか聞いたことがないカタカナの言葉が出てきたけど、それってなに?」と思われたかもしれなので、簡単に紹介しよう。ウォーカブルシティとは「歩きやすいところ」「歩いて行ける街」を意味する。クルマを利用するのではなく、自転車や電動車いすなどを使うことによって、気軽に歩ける街づくりが欧米を中心に広がっているのだ。
このウォーカブルシティを推進している街は、どのくらいあるのあろうか。ちょっと古いデータになってしまうが、21年4月末現在で308自治体である。そのうち、約20%は具体的な計画を練っていて、予算確保などに動いている。われわれが気づかないうちに、「なんだか歩きたくなるよ」「ここは安全だなあ」と感じるところが広がっているのかもしれない。
関連記事
- 丸亀製麺は“讃岐うどん”の看板を下ろしたほうがいい、これだけの理由
またまた炎上した。丸亀製麺が讃岐うどんの本場・丸亀市と全く関係がないことである。このネタは何度も繰り返しているが、運営元のトリドールホールディングスはどのように考えているのだろうか。筆者の窪田氏は「讃岐うどんの看板を下ろしたほうがいい」という。なぜなら……。 - なぜ飛行機の“中古”部品が売れているのか JALのカプセルトイが7時間で完売
飛行機の部品をカプセルトイで販売したところ、航空ファンを中心に話題になっていることをご存じだろうか。JALの整備士が手掛けていて、2〜3日で完売。なぜ人気を集めているのか、担当者に話を聞いたところ……。 - CDが苦戦しているのに、なぜ曲を取り込む「ラクレコ」は売れているのか
CD市場が苦戦している。売り上げが減少しているわけだが、CDをスマホに取り込むアイテムが登場し、人気を集めている。商品名は「ラクレコ」(バッファロー)。なぜ売れているのか調べたところ、3つの要因があって……。 - 渋谷で「5000円乗り放題」を始めて、どんなことが分かってきたのか
長距離バスの運行などを手掛けているWILLERが「月5000円で乗り放題」のサブスクプランを打ち出したところ、利用者がじわじわ増えている。4カ月ほど運営してみて、どんなことが見えてきたのかというと……。 - なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日
またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。二度とこのような悲劇が起きないことを願うばかりだが、筆者の窪田氏は違うことに注目している。「プリウスバッシング」だ。どういう意味かというと……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.