DXは時期尚早!? サイゼリヤがコロナ禍で進める”アナログ戦略”が生んだ想定外の効果:アナログの進化を優先(2/3 ページ)
外食チェーン大手のサイゼリヤは、新型コロナ感染症拡大の影響で苦しむ多くの飲食店を尻目に出店を加速し、2022年度は2年ぶりの黒字化を目指している。コロナ禍でDX推進を掲げる飲食店が増える中、同社は「時期尚早」と判断している。コロナ禍をものともしないサイゼリヤ独自の「アナログ戦略」に迫る。
アナログ戦略は「正しいDX」のための布石
サイゼリヤのアナログ改革は他にもある。キャッシュレス決済の導入が遅れていたが(21年4月全店導入完了)、会計時の小銭のやり取りによる接触時間を短縮するため、20年7月に価格改定も実施した。1円単位の端数をなくし、「50円」「00円」の単位にそろえたのだ。
例えば299円の「ミラノ風ドリア」は300円、139円の「プチフォッカ」は150円に。もちろん値上げだけではなく、値下げも実施。「ライス」は169円から150円に変更した。
堀埜社長によれば、端数をなくした効果は上々で、小銭のやり取りは60〜80%減となり、会計にかかる時間も30%減少したとのこと。来店したグループでまとめて支払うケースも増え、個別会計は25%減少したそうだ。
サイゼリヤの人気の理由は低価格でもあったが、1000円を目安にする客が増加。一概に価格端数の効果とはいえないものの、従来は700円台前半だった客単価が746円台(21年8月期)にアップしたという。
ここまで見てくると、サイゼリヤはDXに消極的なように思えるかもしれないが、決してそうではない。堀埜社長は「初めにDXありき」でシステムが先行してしまい、現場のオペレーションに支障が出ることを懸念しているのだ。「DXはトップダウンではうまくいかない。まずはアナログトランスフォーメーションを進める。DXはその先にある」(堀埜社長)。
サイゼリヤのDXの一つとして、非接触・省人化の観点から外食産業で注目されている配膳ロボットの導入がある。サイゼリヤでは、アルファクス・フード・システムが開発した「サービスショットα2号機」など、数社の配膳ロボットをサイゼリヤ台場フロンティアビル店(東京都港区)に導入、実証実験を進めている。
ただし、ロボットが担当するのは食事を終えた皿や什器などの回収のみ。配膳を担当するのは接客スタッフだ。堀埜社長は「サイゼリヤには熱々の料理もあるので、危険すぎてお客さまには任せられない」と話す。もちろん、先述した「来店客との接触回数を減らさない」という方針に沿う意味もある。
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