イオンの「最低賃金以下」問題から見える、“安いニッポン”の無限ループ:スピン経済の歩き方(2/7 ページ)
イオン九州が、パート従業員を最低賃金よりも低い時給で募集していることが明らかになった。とはいっても、これは単純なミス。システムの更新がきちんとできていなかったので、過去の“安い時給”が表示されていたわけだが、筆者の窪田氏は「見過ごせない出来事」だと指摘している。どういうことかというと……。
安さの無限ループ
最近よく「先進国の中で日本だけ30年間賃金が上がっていない」という問題が指摘されている。「デフレが悪い」「消費税をなくせばすべて解決」などさまざまな意見があるが、低賃金の直接的な原因としては(1)から(3)をエンドレスで繰り返してきたことが大きい。
(1)安い商品・サービスを提供するために、企業は人件費をギリギリまで低く抑える
(2)給料が上がらないので、消費者は「もっと安く!」の大合唱となる
(3)値上げによって客離れするのが恐ろしい経営者はこれまで以上に「安さ」に固執する
この「安さの無限ループ」をこれ以上ないほど分かりやすく、効率的にまわしてきたプレイヤーのひとつがイオングループだということを、今回の最低賃金以下求人問題は示唆しているからだ。
冒頭でも少し触れたが、現在、イオングループは全国約1万店で、「価格凍結」を実施中だ。原材料費や輸送費の高騰で、食品メーカーなどが軒並み値上げに踏み切っている中で、トップバリュの食料品や日用品計約5000品目の価格を3月31日まで据え置くことを発表している。イオンやマックスバリュを利用している方ならば、一度は「今こそ全力で家計応援!」というポップをご覧になったことがあるはずだ。
庶民の痛みに寄り添う「小売業の鏡」ともいうべき英断だが、一方でイオングループが足元で働くパートやアルバイトの方たちに対しても、「全力で家計応援!」をしているのかというと、必ずしもそうとも言えない部分が浮かび上がる。
ご存じの方も多いだろうが、イオングループは日本一多く非正規労働者が働いている。東洋経済オンラインの『「非正社員が多い企業」500社ランキング最新版』(2月26日)によれば、非正規社員数は25万2989人。唯一20万人を超えた企業として「不動の1位」と紹介されている。
このように日本の雇用を支えている巨大グループ企業が、そこで働く非正規労働者に対して「全力で家計応援!」をすれば、全国の地域経済もそれなりに良い影響があるということでもある。
が、現実はそうなっているのかというとなかなか難しい。例えば、先ほど「うっかりミス」のあったイオン九州を例に見てみよう。
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