苦境の老舗を、好調のライバル主導で統合 反発を生まないために、人事がすべきことは?:突然のM&A その時、人事がキーマンになる(2/2 ページ)
ライバル企業として競ってきた大手2社が、合併を行うことに。業績好調のB社主導で、苦境にあえぐ老舗のA社を合併するが、反発が予想される。人事はどう対応すべきか?
事例2:社員の実力レベルが異なる2社 「評価が厳しくなって閉塞感」「一方だけ評価が甘く不公平感」どちらも回避したい
事例2は、従業員数がともに数百名規模のIT企業2社の合併事例である。今後のさらなる事業拡大を目指していたD社は、自社とは異なる技術分野で一定の強みを保有するC社と合併し、サービス領域の拡大とITエンジニアの人材確保を実現していくことになった。
合併に向けた正式合意が交わされ、両社従業員の実力値や処遇水準の比較を行ったところ、総じて実力レベルも処遇水準もD社がC社を上回ることが確認された。しかしここで新会社の経営陣たちは、将来の人事制度統合をどのように進めていくか悩むことになった。
現在の実力値や処遇水準で新会社の等級決定や役職任用を進めてしまうと、C社の従業員は「閉塞感」を感じる一方で、同じ役職に就いている従業員の処遇をそのまま合わせてしまうとD社の従業員が「不公平感」を感じる。そもそも後者の方法は新会社の人件費増を招くため、新会社の経営陣としてはできるだけ避けたい選択肢であった。しかし、C社従業員の処置水準をD社従業員よりも低いまま放置し、将来の展望を提示できなければ、合併後に離職を招く恐れがあった。
役職を外れることへのマイナスイメージを払しょく
さまざまな協議を通じて新会社の経営陣たちは、組織統合と人事制度統合を段階的に進めていくことを決めた。まず組織統合については、合併後1年間は旧会社の組織(役職)をほぼ維持することにし、1年後に組織変更(役職やポストの見直し)を行うことにした。
具体的には、役職者のマネジメント能力を測るアセスメントや新評価制度を導入し、両社の役職者の実力値を統一基準で見極めることにした。また、1年後の組織変更に備え、「役職任期制(一定期間役職に就いたら自動的に役職から外れる制度)」や「さん付け運動」を導入し、「仮に役職から外れることがあっても、マイナスイメージとして受け取られないようにする」ための方策を導入した。こうして、できるだけ両社従業員の納得感を得られる方法を取りつつ、1年後の役職やポストの見直しを段階的に進めていった。
人事制度はモチベーション低下に留意しつつ設計
また、人事制度統合においても、急激な人件費増加を招かぬよう、複数のコースを設定することで両社従業員の現行報酬水準をできる限り維持しつつ、C社従業員の中でも特に優秀な人材は新評価制度の運用結果次第でコース変更も可能とする制度を併存させることにした。C社従業員であっても実力や貢献度によって処遇水準を引き上げるチャンスがあると示すことで、C社従業員のモチベーション低下を招かないよう工夫した。
事例2は、従業員の実力値や処遇水準が異なる2社が合併する場合でも、工夫次第で人事統合をうまく進められることを示している。具体的には、以下の要素がこの事例における成功要因といえるだろう。
- 組織統合を段階的に進めたこと
- 1年後に役職から外れる役職者のモチベーション低下に配慮した施策を早期から導入したこと
- 複数のコースを設けて安易な人件費増加を避けつつ、優秀者であれば合併前の出身企業に関わらず実力主義で処遇できる仕組みを整備したこと
3月11日(金)公開予定の後編「ライバル同士のM&A 大企業の『実力以上の高給』とベンチャー企業の『能力は高いが低給』を、どう調整?」では、医療関連メーカーの合併事例と各事例を通じた人事制度統合の教訓を解説する。
桐ケ谷優(きりがや まさる)
クレイア・コンサルティング株式会社執行役員COO。
1972年生まれ、慶応義塾大学文学部卒。人材ビジネス企業のパソナ、外資系コンピューターメーカーのデルにて 計 8 年間現場人事の経験を積む。その後、国内系人事コンサルティングファームを経て、02年クレイア・コンサル ティングに入社。総合商社、電機メーカー、エアライン、百貨店、ITベンチャーなど、幅広い業種・業界を対象 に人事制度の設計・導入や人材育成体系の構築等を手がけるほか、セミナー講演や雑誌への寄稿なども行う。
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