日本のホテル市場の回復は世界に遅れるのか 回復速度の違いが拡大:ニッセイ基礎研究所の分析(1/5 ページ)
世界ではホテル市場において徐々に明るい展望が見えてきているようだ。一方で、国内ブランドの業績は芳しくない。原因は何なのか?
本記事は、ニッセイ基礎研究所「日本のホテル市場の回復は世界に遅れるのか−今年はさらに国別の回復速度の違いが拡大」(2021年2月28日掲載、金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
要旨
世界ではホテル市場において徐々に明るい展望が見えてきているようだ。国連世界観光機関(UNWTO)の公表によると、2021年の全世界の外国人観光客数は2019年比で▲72%とやや回復した。地域別ではアジア太平洋は▲94%なったが、中国市場への依存度の高さが原因とみられる。いまだコロナ関連規制が強いアジア太平洋エリアを拠点とするホテルグループより、規制が緩和されつつある欧米を拠点とするホテルグループのほうが収益も回復しやすい状況である。
一方で、国内ブランドの業績は芳しくない。原因には、2020年東京五輪開催時に期待された収益が五輪延期後もほとんど得られなかったこと、増加する観光客を期待していた新しい施設の建設費用、人件費などが重なったことがあるだろう。収益の消失に対し、いずれも削減が難しい費用であり、各社の経営を圧迫しているとみられる。
一般的に、コロナ禍前の状況に戻るまでには「(1)日帰り旅行の増加」「(2)近距離旅行の増加」「(3)遠距離旅行の増加」「(4)海外旅行の増加」の各段階の順といわれているが、今はどの段階だろうか。「(4)海外旅行の増加」の段階ではなく、「(1)日帰り旅行の増加」の段階は脱しているようだが、2021年は「(2)近距離旅行の増加」「(3)遠距離旅行の増加」のいずれの段階だろうか。
最も近距離な宿泊旅行を、目的地が旅客の居住する都道府県内の旅行と考え、コロナ禍前の状況を確認してみると、2019年1月から11月に、居住する各都道府県から出発した宿泊旅客のうち、目的地が自身の居住する都道府県内である旅行客の割合は、全体では13.9%であった。
それが2020年4月から11月では、目的地が居住する都道府県内である旅行客の割合は、全体では29.0%、2021年1月から11月では、目的地が居住する都道府県内である宿泊旅客は29.5%となり、やや近距離の宿泊旅行が増加しているようだ。回復の段階に当てはめると、2020年はGo Toトラベルキャンペーンなどの影響で「(3)遠距離旅行の増加」する場面もあったが、2021年は居住地都道府県内近隣にとどまるケースが多く、「(2)旅行の増加」へやや戻り、回復が遠のいた年といえそうだ。
国内では移動自粛の風潮がいまだに強い。しかし、欧米では、各国政府が新型コロナウイルス感染をインフルエンザ等と同様に日常ととらえる向きに世論を着実に誘導しつつ、今後を見据え正常化に向けた行動を促すように政策転換をしているようだ。新型コロナウイルスをどう定義し、どのような国の施策を建てるかは、国ごとに異なると思われるが、今年は国毎のコロナ対策の違いによって、経済の回復速度の違いがさらに大きくなり、ホテル市場の回復にも相当な違いが出てくる年になるのではないだろうか。
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