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ロードスター990S 7年越しの回答池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/7 ページ)

マツダのアイコンともいえるロードスター。マツダにとってはもちろんのこと、世界中のファンにとっても特別なクルマだ。2015年にデビューしたそのNDロードスターが大きく進化した。すでに評判はお聞き及びのことと思う。もはやちょっとしたお祭り騒ぎと言っても良い高評価である。一体何がどう変わったのか?

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 基本的な狙いは、ダイアゴナルロール量の適正化を意図した内側後輪のジャッキアップの抑制。それがKPCである。しかしこれにはさまざまな余禄がある。まず、弱いブレーキによって後輪にイニシャルテンションが掛かっている状態になる。ストップウォッチのスタートボタンの遊び分をあらかじめ押して、ピストルの音を待っているような状態を想像してもらえば良いだろう。

 つまりサスペンションに入力があった時、すぐにダンパーが作動できるので、乗り心地がよくなる。そしてブッシュも同じ理屈であらかじめテンションが掛かっているので、作動時の高レスポンスが期待できる。全体にフィールが変わる嫌なポイント、「非線形域」を除外した作動が可能になる。S字コーナーの切り返しなどではこれが効いてくる。

 顧客によるカスタマイズなどで、タイヤやホイール、ダンパーなどが変わっても、基本は横方向加速度0.3Gで作動し、リヤの左右輪の回転数差に応じて制動力を上げていく制御なので破綻しない。もしこれが絶対値制御であったなら、部品が変わると困ってしまう。仮に部品を交換されても、動作的に困ったことを引き起こさないのみならず、正常に機能し続ける。

 そして何よりも、コストがタダであること。もちろん研究開発のコストはタダではないが、変わるのは基本プログラムだけで、KPCのための新規追加部品は必要ない。ただし、既存部品に対してKPCに合わせた仕様の変更はある。

 マツダでは現在レトロフィットによるアップデートで、すでに顧客の手元にある車両にもKPC仕様にできるかどうかを模索中である。ブレーキという安全の根幹に関わる部分であり、役所が相手なので、それなりに時間は要するかもしれないが、これも実現すれば、朗報のひとつだろう。

 さて、KPCとて魔法ではないので、これさえあれば低速から高速までもう抜かりなくバッチリというわけにはいかないが、今までより「S」の(Sだけではないが)カバー範囲を広げ、従来の良さをスポイルしないまま高速安定性領域のカバー範囲を拡大することに成功したといえるだろう。

 それはNDロードスターがデビューした時以来の課題であり、7年の歳月を掛けて、その根本的問題に相応の解決策を見出したことを意味している。そしてKPCは今後登場するFRのラージプラットフォームに存分に生かされていくことになるのは間違いない。

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