業界トップの「イセ食品」に衝撃! なぜ卵のように転がり落ちたのか:スピン経済の歩き方(2/6 ページ)
「森のたまご」などで知られるイセ食品が、債権者から会社更生法を申し立てられた。鶏卵業界のトップがなぜ追い詰められたのか。背景に“つくりすぎ問題”があって……。
「過剰生産」がデフォルト
マイナビ農業の『なぜ養鶏場は巨大化したのか──採卵養鶏の実際を知る(下)』(21年3月2日)のなかで、採卵養鶏の専門家である北海道大学大学院農学研究院研究員の大森隆氏はこのように述べている。(参照リンク)
『日本の卵の需要量は、私の見るところ、年間240万トン前後なんですね。1991年の時点で、生産量は250万トンに達していて、すでに生産過剰でした。今では260万トンになっているわけで、ここ数年、毎年15万〜20万トンくらいの過剰生産が続いているんです』
農林水産省のデータをみると、11年の鶏卵生産量は248万2628トンでその後も250万トン水準でじわじわ増え続けて17年についに260万トンを突破、20年には263万2882トンとなっている。もともと生産過剰だったところにこの9年でさらに15万トンも生産が増えているのだ。
普通に考えれば、そんな常軌を逸した過剰生産を続けていたら価格が下落して、生産者の経営は大打撃だが、鶏卵の場合、価格と生産者の経営安定のために国の補助金が注ぎ込まれているので、「過剰生産」は改善されることなくデフォルトになっているのだ。
というと「いやいや、鶏卵の生産が増えているのは、品質の高い日本の卵を輸出しているからでは」と受け取る人も多いだろう。確かに以前よりも増えているが、それでも20年の鶏卵輸出量は1万8128トンしかない。加工品などで卵の用途が広がっているとか、パンケーキブームが起きたからといっても、15〜20万トンもの過剰生産はチャラにできないのだ。
この専門家も危惧する「日本のたまご過剰生産問題」をさらに深刻にしているのが、「たまごを食べる側の激減」である。
総務省統計局によれば、11年10月の日本の人口は約1億2779万9000人だったが、これが20年10月には約1億2622万7000人と、150万人減少しているのだ。と言われてもピンとこないだろうから、東京のベッドタウンである神奈川県川崎市で暮らしている人々が丸ごとごそっと消えたと考えていただきたい。
これだけの勢いで消費者が急激に減っているなかで、卵の過剰生産を続けるどころかそれをさらに増やしていけば、生産者側の経営が苦しくなっていくのは容易に想像できよう。
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