業界トップの「イセ食品」に衝撃! なぜ卵のように転がり落ちたのか:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
「森のたまご」などで知られるイセ食品が、債権者から会社更生法を申し立てられた。鶏卵業界のトップがなぜ追い詰められたのか。背景に“つくりすぎ問題”があって……。
「安いたまご」を守るために
小規模事業者がバタバタと消えて「大規模化」が進むことによって、スケールメリットで質の高いものが信じられないほど安く売ることができる、というのはコンビニをイメージしていただければ分かりやすい。
30年くらい前まではそれぞれの地域に、酒屋が経営するような個人コンビニもあったが、小規模事業者には「大量に生産して大量に売る」が不可能なので、「安くてうまい」を実現する大手コンビニに追いやられて続々と廃業していく。
結果、残ったのは、セブン、ローソン、ファミマというビッグ3。コンビニが集約されたことで、日本の消費者は世界の人々が驚くほど安くてうまいパンやおにぎりを食べることができている。しかし、この「集約」がコンビニの低賃金労働という問題も引き起こしてしまっているのはご存じの通りだ。
これは鶏卵も同じだ。「集約」によって、消費者は質のいい卵を信じられないほど安く買えるが、そのおかげで個人の養鶏場はバタバタと潰れ、アニマルウェルフェアのような国際基準にも背を向けないといけない。そして、業界トップは債務超過になるほど拡大路線を続け、業界ナンバー2は汚職にまで手を染めてしまった。すべては「安いたまご」を守るためだ。
つまり、消費者が当たり前のように買っている「安くて安全なたまご」は、さまざまな人たち、さまざまなものを犠牲の上に成り立っているのだ。
「物価の優等生」なんてありがたくない称号のせいで、卵は「安いのが当たり前」になってしまって、ちょっとでも高くなると「われわれに死ねということか」と嵐のようなバッシングを受ける。しかし、世界に誇る日本の鶏卵を守っていくには、そろそろ消費者も「おいしくて安全な卵はそれなりの価格がする」という当たり前の事実に気付くべきではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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