導入済はわずか1割未満 6割が「必要なし」 日本企業がスルーして損しがちな「メリットだらけの制度」とは:5つのメリット(1/4 ページ)
さまざまなメリットが期待できる「勤務間インターバル制度」。現在はあくまで努力義務にすぎないが、今後は法制化も十分あり得る。まだまだ導入が進まず、「必要なし」とする企業も多いのは非常にもったいない状況だといえるが、なぜなのか。
睡眠不足の状態で勤務すると、不注意が発生したり仕事効率が下がったりしがちです。職種によっては人命を奪うほど大きな事故につながることさえあります。代表的なのが、バスやタクシー、トラックなどで人やモノを運ぶ運輸業です。
2018年には国土交通省が、バス・タクシー・トラック事業にて睡眠不足の乗務員を乗務させてはならないことを義務化しました。そして今、働き方改革の一環で整備された法律に関連して、1日の休息期間に関するルールを労働政策審議会の部会にて議論しています。東京新聞は議論の様子を「バス運転手らの過労対策案 休息『11時間』が企業抵抗で『9時間』に 睡眠不足で『乗客らの安全に疑問』」 と題して報じました。
勤務終了後、翌日の出勤までの間に一定以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みを「勤務間インターバル制度」といいます。記事では、欧州連合(EU)規制や国際労働機関(ILO)勧告に合わせて11時間の勤務間インターバルを設けるという案が、運輸業界の経営者代表らの反対により9時間に修正される見込みだと伝えられています。
このように勤務間インターバルの必要性が議論されているのは、運輸業界だけではありません。17〜18年にかけて、厚生労働省は五度にわたり「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」を開催してきました。そして、働き方改革の一環として労働時間等設定改善法が改正され、19年4月から勤務間インターバル制度導入は、全ての会社にとって努力義務となっています。
しかしながら、厚生労働省の「令和3年就労条件総合調査」によると、勤務間インターバルを導入している会社の比率は4.6%にとどまります。
終業後から次の始業時間までに十分な休息をとるのは、普通に考えてみれば当たり前のことです。それなのに、95%以上の会社が勤務間インターバル制度を導入していないのはなぜでしょうか。組織構造上の阻害要因としては、大きく3つ挙げられます。
(1)無理ありきの業務設計
(2)残業ありきの給与評価
(3)前例ありきの組織運営
ここからは、3つの阻害要因について解説していきます。
(1)無理ありきの業務設計
「無理ありきの業務設計」とは、そもそも働き手が無理することを前提に業務体制を組んでいることを指します。例えば営業職の場合、1人でなるべく多くの顧客を担当した方が「効率的」です。しかし、効率を重視するあまり業務負荷が増えすぎたり、サービスが行き届かなくなってしまったりすることがあります。職員1人につき、4歳児以上なら30人まで担当してもよいという、ハードに思える配置基準が定められている保育士なども「無理ありきの業務設計」が懸念される代表例の一つです。
同様に、勤務時間においても「無理ありきの業務設計」は発生します。2交代や3交代でシフトを組んでいる医療介護施設や24時間営業のコンビニエンスストアなど、人員ギリギリで業務を回している場合、1人でも欠員が出ると他の社員に無理が生じます。ところがそれで業務が回ってしまうと、「1人抜けてもなんとかなるね」と常態化し、いつの間にか各社員が無理することを前提にした業務体制が組まれることになります。
そんな構造に陥ってしまった職場に勤務間インターバル制度を導入すれば、社員が無理をしてカバーしていた時間に穴が空きやすくなり、業務体制を再構築するために大きな労力やコストがかかってしまいます。
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