キリンビールの「本麒麟」が好調 敏腕マーケターに聞く「売れ続ける理由」:酒税改正を見据えて(3/5 ページ)
キリンビールのビール類の販売量が減っている中、気を吐いているのが新ジャンル(第3のビール)の「本麒麟」だ。マーケティング本部の松村孝弘ブランドマネージャーに開発コンセプトを聞いた。
愚直に商品の良さを伝えていくしかない
今回の本麒麟はブランド開発開始から「1500日の開発期間」と銘打たれている。松村ブランドマネージャーよれば「2018年に開発してから今に至るまでです」と話す。
CM撮影でタレントに出す杯数を1杯だけにこだわった理由について聞くと「商品力があり、1杯でお客さまにおいしさを分かっていただける自信があるからです。1杯に込められたおいしさを出演者の方に体感してもらいその様子をドキュメンタリー的に撮っていく手法がより訴求できると考えました」という。
リニューアルにあたりどういった課題があり、客からはどんな要望があったのか。
「コロナ禍で家飲み中心となり、自分に向き合う時間が増えたのか、自分にとっていいものを飲みたいという要望が増えました。本麒麟が支持されている理由は、『華美なおいしさ』というよりも、『普段使いのおいしさ、日常に寄り添えるおいしさ』があるからです。飽きない、相棒のような商品を目指しました」
ビール類と言ってもすっきり、まろやかさ、コク、苦みなどいろいろな味がある。日常で飲むとなると、結局は何が好まれるのか。
「バランスだと思います。理想的には、最初は飲みごたえがありつつ、飲んだ後にすっきりした後味があり、余韻が残るものです。そのため、リニューアルの前までに膨大な数の試飲データを集めました」
デザイン面はどうか。スーパーやコンビニの陳列棚には、たくさんのビール類が並んでいる。もしビール類の知識がない場合、どれを選ぶか迷うはずだ。その中で本麒麟を選んでもらう必要がある。手に取ってもらう工夫はしているのか。
「本麒麟という名前を掲げたので、コーポレートカラーの赤を使用しました。発売当初は、ほとんど見たことのない色でしたので、店頭で映えると思いました。また新ジャンルゆえに品質に疑念を持つ人がいてもおかしくはありませんから、品質の良さを感じるためのデザインも考えました。お客さまにも缶のデザインについて意見を聞きました」
筆者も若い人と飲む時、苦いからという理由でビール類を飲まない若者が増えたと感じる。そういう客層の開拓はどうするのか。
「初めてビール類を飲むときは、自分で買うよりも先輩や友人と飲むことが多かったと思います。なんとなく飲んでいるうちに、苦みに慣れていくはずです。今は特にコロナでお客さまとの接点が減りましたので、何とか飲んでもらう機会を作り、愚直に商品の良さを伝えていくしかないですね」と正攻法で勝負するという。
本麒麟のブランドチームは5人ほどだ。本麒麟は急逝した布施孝之前社長が就任した後の新商品であり、「皆さまに愛される商品を作りたい」という前社長の並々ならぬ気持ちを感じていたそうだ。事実、本麒麟が発売される前もたくさんのビール類を開発してきたものの、なかなか成功するビール類は誕生しなかった。生き残るビール類と、そうではないビール類の違いを聞くと「お客さまの声を聞いて、開発できているかどうか。そして進化させていけているかどうかに尽きると思います」と話す。
進化という意味で、本麒麟は独特の製造方法を採用している。
「今回、デコクションという製法を取り入れました。理由は、製造の途中で2つの仕込み窯に分けて材料を煮込み、再び1つの窯に合わせることで深いコクとまろやかさ、すっきりとした後味を醸成できるからです。またホップは、キリン伝統のヘルスブルッカーホップを使っています。ずっとキリンラガービールで使用してきたものですが、キリンのモノづくりの姿勢を示す意味で本麒麟にも使うことを決めました」
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