従業員10人の町工場が手掛けた「下町アーチェリー」 東京・江戸川区からパリ五輪へ:“日の丸アーチェリー”復活(6/6 ページ)
かつて世界に誇るアーチェリー専門ブランドがあった日本。バブル崩壊後の不景気や少子化などで事業撤退を余儀なくされ、“日の丸アーチェリー”は2000年代初頭までに事実上、消滅したが、約20年の時を経て、昭和感が残る下町の小さな町工場がそのDNAを引き継いだ。いかにして、国産アーチェリーは復活を遂げたのか。その舞台裏を取材した。
パラ向けアーチェリーの国産化も進行中
ユーザー確保とシェア拡大の一環として、現在、同社はパラリンピック向けアーチェリーも開発中だ。五輪競技のアーチェリーでは弓の原型に近い「リカーブボウ」を採用しているが、パラリンピックでは先端に滑車を取り付け、発射時の負担を軽減する「コンパウンドボウ」を採用している。
リカーブの3分の1程度の力で発射でき、体への負担が少ない上、的中性能もリカーブより高いのが特徴。五輪には現在採用されていないものの、世界選手権などの国際大会では、リカーブボウ同様、健常者のコンパウンドボウを使った競技が実施されている。このため、欧米ではアーチェリーとして最もポピュラーなスタイルで、日本国内でも近年、競技人口が増えつつあるという。
過去に国産アーチェリーを手掛けたヤマハなどはコンパウンドボウは製造しておらず、製品化が実現すれば、日本のアーチェリー業界初の快挙となる。20年11月には、東京都立産業技術研究センターの「障害者スポーツ研究開発推進事業公募型共同研究」の認定を受けた。現在、同研究所などの資金協力などを受け、製品化に向けた試作が進行中だ。
「日本メーカーが日本の選手のためにつくる」を“1丁目1番地”に
受注から1カ月程度で納入できるスピード感も同社の武器の一つになる。一見遅いようにも思えるがアーチェリーは受注生産が多い。「海外メーカーだと注文から納品まで数カ月かかるケースもある」(西川社長)という。
小さな町工場ならではの機動力を生かし、製造コスト縮減と生産能力の向上に取り組むことで、シェア拡大を目指す。西川社長は「まずは国内シェア10%を目指す。小さな業界だが、(市場は)ブルーオーシャンなので、不可能な数字ではない」と強調する。
アーチェリーでは、用具選定の際、コーチなど指導者の意向も強いとされる。日本代表が強豪国の韓国からコーチを招へいしていることや韓国勢が五輪でメダルを量産していることから、日本の有力選手の中には韓国メーカーを使用する選手も多い。日本代表選手御用達のブランドに成長するには、国内外での認知度向上が重要になる。同社は、今後、国内外での営業活動を強化する方針だ。
現在は別のアーチェリー技術者の協力を得て、新製品の開発にも取り組んでいる。西川社長は「日本メーカーが日本の選手のためにつくる。選手強化のためには自国メーカーの存在は欠かせない。今後もブレることなく、これを1丁目1番地にしたい」と意気込み、「日本にユーザーがいる限り、作り続ける。そして、ユーザーの中から五輪選手とメダリストが誕生したら光栄なことだ」と笑顔を見せた。
さまざまな知見を集約し、国産アーチェリーを復活させた同社。70メートル先の的だけでなく、パリ五輪を目指す選手の心も射止め、江戸川の西川から、世界のNISHIKAWAになれるだろうか。パリ五輪を機に、職人の技術力が詰まった日の丸アーチェリーが世界のアーチェリー業界の勢力図を塗り替えるかもしれない。
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