宇野昌磨選手と“りくりゅう”ペアの足元支えた国産ブレード 創業95年の老舗メーカーが挑んだ初五輪:開発着手から9年、メダル獲得に貢献(1/4 ページ)
メダルラッシュとなったフィギュアスケートで、宇野選手と“りくりゅう”ペアが着用したスケート靴のブレードは、愛知県内のメーカーが手掛けた国産品。従来の海外製ブレードよりも耐久性が強く、選手からは高い評価を得ている。開発の経緯などを聞いた。
短期連載「沸騰!北京五輪」
コロナ禍での開催となった北京五輪。北京は2008年にも夏季五輪を開催しており、夏冬の五輪を開催した史上初の都市となる。前回の北京五輪から約14年が経過し、各企業を取り巻く環境も大きく変化している。冬のビッグイベントに出場選手や企業、政府などはどう関わっていたのか。動向を追う。
北京五輪でメダルラッシュとなったフィギュアスケート。団体では日本史上初の銅メダルを獲得。個人では男子で鍵山優真選手が銀メダル、宇野昌磨選手が2大会連続のメダルとなる銅メダル、女子も坂本花織選手が銅メダルをそれぞれ獲得した。ペアでは“りくりゅう”ペア(三浦璃来・木原龍一組)が7位となり、日本勢初の入賞を果たした。
このうち、宇野選手とりくりゅうペアが着用したスケート靴のブレードは、愛知県内のメーカーが手掛けた国産品。従来の海外製ブレードよりも耐久性が強く、選手からは「折れや曲がりがない」「常に同じ状態で練習できる」などの高い評価を受けている。
2013年の開発着手から、足かけ9年でたどり着いた初五輪。海外製が主流のスケート業界で、メダリストが愛用する国産ブレードはどのような経緯で誕生したのか。開発の舞台裏や高い耐久性を誇る秘訣などを担当者に聞いた。
選手のメダル獲得に対し「今までの苦労が報われて、すごくよかった」――そう振り返るのは愛知県内で特殊鋼の販売・加工などを手掛ける山一ハガネ(名古屋市)の石川貴規・製造第二グループグループマネジャー。宇野選手らが北京五輪で使用したスケートブレードの開発を手掛けた。
同社は1927年創業の老舗メーカー。従業員数200人、年商160億円を誇る。日立金属の特殊鋼をメインで扱っており、中部地方では最大シェアを誇る。同社の特殊鋼の多くは自動車向け部品の金型に使われ、愛知県という土地柄もあり、顧客の中にはトヨタ自動車の部品を手掛けるメーカーもいるという。
“4回転時代”の到来 損傷多発の海外製ブレード
スケート靴は、シューズとブレードを取りつける金具、ブレードの3点で構成される。これまで主流だった米国と英国製では、金具とブレードが別々になっており、溶接で接合していた。
ただ、部品同士を溶接する手法では耐久性が低く、ジャンプの着地時の衝撃でブレードが曲がったり、折れたりすることがケースが多発。各選手を悩ませていた。特に男子では近年、多くの選手が4回転ジャンプに取り組むようになり、着地時の負荷はこれまで以上に増加。トップ選手になると、破損によって、1カ月に2〜3回ブレードを交換することもあるという。ブレード1本の相場は約8万円。両足なら単純計算で16万円程になる。メーカーと用具契約を結ぶトップ選手であれば問題ないが、それ以外の選手にとっては大きな出費となる。
損傷すれば、ブレードを付け替えればいいようにも思えるが、そんな簡単な問題でもないらしい。石川マネジャーは「フィギュアスケートはデリケートな競技で、選手は変化を嫌う。ブレードだけでも個体差があり、用具の癖も理解した上で練習を重ね、体に馴染ませていくからだ」と説明する。
石川マネジャーによると、数年前、現役生活最後の試合として臨んだ全日本選手権の試合直前の練習でブレードが破損。競技することなく引退を余儀なくされた選手がいたという。競技のデリケートさを象徴するエピソードと言えるだろう。
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