従業員10人の町工場が手掛けた「下町アーチェリー」 東京・江戸川区からパリ五輪へ:“日の丸アーチェリー”復活(5/6 ページ)
かつて世界に誇るアーチェリー専門ブランドがあった日本。バブル崩壊後の不景気や少子化などで事業撤退を余儀なくされ、“日の丸アーチェリー”は2000年代初頭までに事実上、消滅したが、約20年の時を経て、昭和感が残る下町の小さな町工場がそのDNAを引き継いだ。いかにして、国産アーチェリーは復活を遂げたのか。その舞台裏を取材した。
“射ち感”を初めて言語化→データ化
本郷さんとの協力の末、翌17年には現行機のプロトタイプが完成。製品化につなげた。西川製の弓で特にこだわったのが、“射ち感”の追及だ。矢を発射した後の手応えの良さを競技者の間では「射ち感がいい」と表現する。一方で、競技者の感覚に依存するとされ、射ち感が良さの要因を研究するメーカーは存在しなかった。
そこで同社は、電気通信大学との産学連携で「射ち感の良さとは何か」の言語化に挑戦した。その結果、「射ち感の良さ=矢を放った後に弓のブレや振動が手に伝わった時の良さ」という結論に至った。
調べたところ、矢を射る前後の各部品の“ガタつき”が、矢のブレや精度に影響することが判明。つまり、ガタつきを軽減することで精度が向上し、それがユーザーの射ち感の良さにつながるのだ。
命中精度向上 カギは特許取得の独自機構
競技時は、ギターのチューニングのように、各部位のネジを緩め、矢が弓の中心にくるよう調整する。ただ、この機構では、ネジの緩みが弓のガタつきにつながる。同社は、接合部に凹凸を付け、そこにはめ込むことで軽減する方法を考案した。くぼみの先に行くほど、穴の横幅を狭くし、ガタつきを減らす。電通大とともに試作と実験を繰り返し、結果をデータ化。最適な幅を導き出し、独自機構を確立した。
特許を取得した独自機構の考案には、西川社長自身が過去に手掛けた製品からヒントを得た。本体の軽量化と剛性の両立にも取り組み、20年3月、アーチェリーと金属加工のそれぞれのスペシャリストの技術が詰まった「SH-02」を発売した。SHは技術顧問の本郷さんのイニシャルだという。
採算性確保が課題に
発売後、ユーザーからは「発射後の安定感がいい」などの声が届いているという。その後も改良を重ね、現在では森みみ選手(台湾の大会で個人2位)や石井美羽選手(日本代表の選考会で4位)など、日本アーチェリー界の未来を担う次世代の選手が使用している。
日本貿易振興機構(JETRO)の協力も得て、海外にも進出し、五輪出場経験があるフランス人選手2人も使用しているという。
今後の最大の課題は採算性の確保だ。「現状、採算は取れていない」と西川社長。全日本アーチェリー連盟によると、日本国内の競技人口は男女計1万1493人(2021年度)だという。
ただ、この数値は同連盟に正式に競技者として登録をしている人数。高校や大学の部活動で毎年1000〜2000人の新規プレイヤーが生まれているとみられることから、西川社長は「趣向者を含めると日本国内に5万〜6万人の潜在的な競技人口がいるのではないか」と見る。
新たに競技を始めた初心者が同社製を選ぶよう営業活動を強化し、国内でのシェア拡大が求められる。
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