廉価版ではない? アップルが「iPhone SE」を続ける理由:本田雅一の時事想々(2/3 ページ)
iPhone SEシリーズは“廉価版”と表現されることも多いが、そのルーツや位置付けは廉価版とは少々異なる特殊なものだ。第3世代のiPhone SEはどのような意味を持つ端末なのだろうか。
理由は例によって語られることはないのだが、iPhone 5sというiPhoneの基本形が役割を終え、SEも十分にその役割を果たしたからと考えるのが妥当だろう。その後のiPhoneはiPhone 7で非接触決済(Apple Pay)に対応。iPhone 5sの設計は古いものになっていた。
次の基本形となったiPhoneは、iPhone 8だ。この年には新しい世代のiPhoneとして、iPhone Xも投入されている。ホームボタンを備えるものはiPhone 8が完成形であり、次の10年の進化を始めるにあたって、Face IDを搭載するiPhone Xを別シリーズとして立ち上げた。ここであらためてiPhoneという端末のベースラインが引き直されたことになる。
その2年後にiPhone SEの第2世代モデルが登場したが、その外観や内部構造はiPhone 8とそっくりだった。そして今回の第3世代モデルも同じ。近年のスマートフォンにとって特に重要な機能であるカメラも、カメラモジュールだけを取り出すと全く同じだ。
一方、SoCは最新モデルであるiPhone 13/13 Proシリーズと同様、A15 Bionicチップを搭載。さらに通信モデムを5G対応とすることで、現代のトレンドに適応した。
細かく違いを見ていけば、表裏のカバーガラスに使われている素材が、iPhone 13世代の強度の高い素材に変更されていたり、同じようなカラーバリエーションに見えても、実際にはスターライトとミッドナイトという、アップル製品とのなじみが良い色へと変えられていたりなどのアップデートはある。
しかし、その基本的な部分を見つめ直すと、iPhone 8という新しい基本形を、時代に合わせてリフレッシュした端末が、現在のiPhone SEといえるだろう。
“廉価版”ではなく“戦略性の高い”モデル
iPhone SEは、内蔵するフラッシュメモリ容量などが見直され、その時々の最新iPhone(ここではナンバーシリーズと呼びたい)よりも容量が少なめの設定であるため、実売価格でも安価なことが多い。しかし構造や素材はあくまで(かつての最上位モデルだった)iPhone 8と同じだ。
極めて細かなことをいえば、組み立てている工場や組み立て時の合わせ精度などの基準がやや異なるのだが、ほとんど違いを感じることはないだろう。
そうした意味では廉価版ではなく、開発費の償却を終え、組み立てラインなど生産性を高めるノウハウも十分に得られたかつての最上位モデルに、最新の性能を与えることでリフレッシュし、性能と価格のバランスを追求した製品という言い方もできる。
アップルにとって、普及している端末が搭載するSoCが何であるかは、実はとても大きな問題だ。
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