なぜ、ソニーとホンダが提携するのか スピード合意の裏に“EVの地殻変動”:本田雅一の時事想々(1/2 ページ)
ソニーグループと本田技研工業が、モビリティ事業の戦略提携に合意した。提携の話が始まったのは、21年12月。スピード合意の裏側には何があったのか。
“ソニーのクルマ”が現実へ大きく前進した。ソニーグループと本田技研工業は3月4日、モビリティ事業の戦略提携に合意したと発表した。共同記者会見では、ソニーグループの吉田憲一郎会長(兼社長CEO)と本田技研工業の三部敏宏社長(兼CEO)が顔をそろえ、経緯や今後のビジョンを話した。
両社は新たに合弁会社を設立し、電気自動車(EV)の共同開発、販売、メンテナンスまで手掛ける。新会社では車体の企画、設計、開発、販売だけではなく、EV向けの情報通信システムやネットワークサービスも開発。販売するEVに搭載し、サービスを提供する。新会社が企画する最初のEVは、2025年に販売する見込みという。
車両生産にはホンダの生産設備を用い、情報通信システムやネットワークサービスの開発はソニーが主体となって行う。ソニーが開発してきたセンサー、AI、エンターテインメント技術が生かされたEVになるという。
具体的に提携の話が始まったのは、21年12月のことだった。21年夏にホンダがモビリティ事業に関し、異業種との意見交換を目的に、若手エンジニアが集まるワークショップをソニーに申し入れていた。その場で「創業者同士が近い考えを共有し互いに影響し合っていた」(吉田氏)、「歴史的、文化的にシンクロする両社」(三部氏)と相性の良さを感じ、話をする機会を持ったことで、極めて短い時間で戦略提携の合意に至った。
新会社の社名やブランドなどについて触れられることはなかったが、ホンダ自身が手掛けているEVとは全く関連性のない、独立したコンセプトの製品になる。またソニー自身がEV「Vision-S」向けに開発してきたセンサーやソフトウェア、情報通信技術が基礎になるとみられる。
これらから見えてくるのは、“ソニー製EV”を実現する現実的な選択肢としてソニーがホンダを求め、既存自動車会社の枠組みを超えたEVの開発に直接触れる機会として、ホンダがソニーとの協業を選んだ──という相互関係だろう。
吉田氏は20年1月、米ラスベガスの展示会で「これまでの10年、業界を最も変えたのがモバイルだった。そしてこれからの10年を変えていくのはモビリティだ」と話し、さらにモビリティの世界はモバイルと融合していくとも語っていた。
また吉田氏は、エレクトロニクス製品を祖業とするソニーに関して「IT、通信、モバイル、(ネットワーク)サービスを率先して提供してきたのではなく(時代の変化に合わせ)対応してきた」とも経緯を説明していた。VAIO、Xperiaの発売、PlayStation Networkの発展などがそれに当たるが、それぞれがソニーの持つ他ジャンル製品を成長させてきた。
では、これからの10年、モビリティが業界を大きく変えていくのであれば、ソニーはどのような役割があるのか。コンセプトカーの開発を通じて確認してきたのは、ソニー自身がどれだけ大きな役割を果たせるのかだった。
その中で「安全性、エンターテインメント、進化を支えるアダプタビリティ(順応性)で貢献できる」(吉田氏)と確信したことで、サプライヤーではなく、最終製品を自分たちで提供する必要があるとの結論に達していたという。
EVの震源地は「自動車メーカー以外からだった」とホンダの三部氏
ソニーが自社開発のEVで勝負したいという意気込みは、今年1月、米ラスベガスで開かれたイベント「CES」での発表を知る方ならばご存じだろう。このときには、まだホンダとの提携は話が始まったばかりだったことになる。吉田氏も早期の合意に至れるとは想像していなかったのではないだろうか。
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